取材ノート


在日文化の一つタッペギ

 「旅館やペンション、レストランなどにおいて、自らホワイトリカーなどに果実を漬け込んだ酒を客に提供することは酒税法に違反し、懲役または罰金の適用を受けることになるのでご留意ください」

 湯布院温泉の里、大分県湯布院町の各旅館に最近、大分税務署からこんな要旨の「警告文」が舞い込んだという。つまり、旅館が宿泊客に提供するために自家製の果実酒を造ることは、酒の密造に当たるというのだ。

 そう言えば、全国各地のトンネを取材していると、必ず、タッペギ(どぶろく)造りの話が出る。タッペギは、タッチュ、マッコルリとも呼ばれる。にごり酒のことだ。

 湯布院町の旅館の場合は、きめ細かなサービスの一貫だが、トンネの同胞たちのどぶろく造りは、家族を養い食べさせるための手段だった。

 横浜市の中村トンネに住む金南珠さん(83)は、「当時は、どこの家でもタッチュを造って売っていた。私も4回ほどつかまりました。60年代までは一般的な話でした」と語っていた。

 酒税法によると、酒類を製造しようとする者は、所轄税務所長の免許を受け、酒税を収めなければならない。

 北九州市にある小倉のトンネでは、「2〜300人の警官と税務署署員がトラック4〜5台で押し寄せたことも日常茶飯事だった」とか。

 しかし、対策も講じられていた。

 「なぜだか、捜査が行われる日時が事前に伝わってきていた」、「タッペギは床の下に隠した」、「豚のふん尿をかけて匂いを消した」などの話はどこのトンネでも共通する。

 最近では、正規のタッペギが焼肉屋などに置かれている。焼肉も在日の文化の1つだが、タッペギもそう言える。 (羅基哲記者)