在日朝鮮人の人権シンポ-民族教育、社会保障/大阪


パネルディスカッション

・ 無報酬の学級講師、保障を
・ 教育は国際法上の権利
・ 足りない高齢者への配慮
・ 疎外は違憲、見直すべき

 シンポジウム「いま在日朝鮮人の人権は−隣人と手をつなぐために−」(主催=在日朝鮮人人権セミナー、在日本朝鮮人人権協会近畿地方本部)が4日、大阪市天王寺区のたかつガーデンで行われ、在日同胞有識者、各界の日本人ら300余人が参加した。シンポでは、立命館大学法学部の徐勝教授の特別講演、「アジアから見た日本の有事法制化」(要旨別項)に続き、「いま在日朝鮮人の人権は 民族教育、社会保障から見た在日朝鮮人の人権を検証する」をテーマに、小田幸児弁護士、金井塚康弘弁護士、朴正恵民族教育促進協議会事務局・大阪市民族講師会共同代表、崔雅絹・老人保健施設ハーモニー共和相談指導員による、パネルディスカッションが行われた。その内容を紹介する。


 朴正恵さん

 現在、民族学級は大阪府内で約170校(生徒数約6300人)にまで拡大された。民族学級は日本学校に通う子供らの民族的アイデンティティを育てる取り組みとして、開設されたものだが、民族学級の講師らには、現在何の社会保障もなく、ほとんどの講師がボランティア状態にある。こうした現状を改善し、今後は職業として定着させられるよう制度保障を実現させるべきだ。

 小田幸児さん

 これまで日本政府は、1965年の「日韓法的地位協定における教育関係の実施について」や「朝鮮人のみを収容する教育施設の取り扱いについて」など2つの通達を基本に、民族学校に対してきた。だが、憲法上の解釈では、在日コリアンは日本で民族教育を受ける権利があり、その権利を保障しないことは、国際人権法にも反する。

 崔雅絹さん

 在日同胞の社会福祉サービスの利用状況を見ると、在日高齢者たちの食と文化を考慮していなかったり、スタッフと会話が思うようにいかないことから差別を受けているかのような意識を持つなど、様々な要素が重なって、利用の比率は低下している。

 行政機関が在日外国人高齢者規格を推進するよう働きかけることと、スタッフが歴史的背景における在日高齢者たちへの思いやり、存在を知り理解を寄せるべきだ。

 金井塚康博さん

 在日コリアンが社会保障の面で、疎外されているのは、憲法上から見ても違憲である。過去の清算の見地からしても在日朝鮮人の社会保障や、民族教育の保障を見つめ直す必要がある。

別項
大きな枠の中で問題解決を/徐勝教授の講演

 米国は、朝鮮半島「有事」にどう対応するか、本格的な戦争に至るシナリオを作り上げてきた。ここで非常に重要な問題が、在日朝鮮人に対する取り締まり、弾圧である。破防法の総聯への適用は、組織への弾圧にとどまらず、朝鮮籍のすべての人に対する日常的な監視・弾圧を伴う。

 「政治犯」として「韓国」に十数年間いた私は、こうした事態を経験してきた。朝鮮人として、朝鮮の平和と統一を願い、同族を殺りくする米国に反対するのは極めて自然なことなのに、それが弾圧される。

 「有事」法や破防法の問題は、在日朝鮮人に「国家保安法」を適用するのとほぼ同じ意味だろう。保安法の廃止・改正が論議される中、日本がこれを立法化しようとしていることを知っておく必要がある。

 最近、日本で「在日論」に関する論議がある。基本的には、朝鮮半島など日本の外と、日本の中を区別する考え方であり、最大の特徴は「多文化・多民族共生」を掲げて差別に反対していることだろう。

 私はもちろん差別には反対するし、在日朝鮮人が求める権利は単なる平等ではなく、長きにわたる不法な支配に対する清算であると考える。だが、限りなく日本人と同等の法的地位を得て、そこに安住するのを、アジアや朝鮮半島の人が見た時、それを「朝鮮」として見るだろうか。

 人権とは苦痛や弾圧を受けた人たちの切実な声であり、そういう声が人権という概念を作っていく。祖国を知らない在日朝鮮人の若者も、それぞれ痛みを抱えているだろう。その痛みが何かを考える必要がある。

 在日朝鮮人が「在日論」の流れの中で、日本という枠組みに迎合すれば、必ず過去の長きにわたるたたかいとの対決を迫られることになる。そこでの結果は敗北であると考える。

 世の中の様々な思いは、往々にして大きな力に踏みにじられるものだが、大きな力が常に勝利し、永久に続くならば、歴史の変化は存在しない。過去の清算とは正しい未来を作ることである。在日朝鮮人の日常的な様々な問題をより大きな枠組みでとらえ、「こういう権利をください」というレベルではなく、歴史を清算してアジアの平和を作るんだという考え方を持ってほしいのである。