インタビュー
「大韓航空機858便」失踪事件を追って/破壊工作」の著者-野田峯雄氏に聞く


 1987年11月29日に起きた「大韓航空機858便」失踪事件を追い続けているジャーナリスト、野田峯雄氏(54歳)の著書「破壊工作」が文庫本として宝島社から出版された。90年8月に同社から刊行された単行本を増補・改訂したもので、「国家謀略行方不明事件」(「あとがき」)の実態を臨場感あふれる筆致でレポートしている。現場主義に徹し、事実の検証作業を今も続けている野田氏にインタビューした。

加工された情報うのみにせず


 ――真相に迫ろうとした動機は何だったのか。また、「金賢姫」にこだわり、「李恩恵」を追っているが。

 野田 国家権力によって情報がコントロールされるいびつな環境の中で、ジャーナリストとして可能な限り、ベールに包まれたこの事件の実態と真相解明に迫りたかった。

 「あとがき」にも書いたが、87年12月1日、バハレーンでの「蜂谷眞一」と「蜂谷真由美」の服毒に強い衝撃を受けた。以後、加工された情報をうのみにせず、徹底して情報提供者に会って取材を重ねていくことのみ、事件の真相に近づけることを確信し、現場に行き、聞き、記憶する、さらに想像し続けていった。追跡は、今も続いている。

 それと、連動して「北朝鮮に消えた女 金賢姫と李恩恵を追って」をまとめた。

 「KAL機事件」から過去十数年間の日本当局の朝鮮半島問題にかかわる言動が、「ら致」にせよ「テポドン」にせよ「金賢姫」、「李恩恵」に強く呪縛(じゅばく)されてきたことは否定できない。それは、これまでの取材過程で得た実感だ。


矛盾に満ちている「金賢姫」の証言


 ――この事件は、いまもって謎だらけなのだが、取材を通して、見えたものは何か。

 野田 1つは、機体消失をめぐっての状況と、もう1つは、「金賢姫」証言の矛盾点である。当初、南の当局と大韓航空は、ミャンマーとタイの山中で機体捜査に時間を費やした。そしてやっと海の捜査を始めたものの、10日ほどであっさりあきらめて引き上げてしまった。

 継続してやろうと思えば出来たはずだ。「大統領選挙」の投票日を控えていた当時の南の状況からして、意図的に闇に葬りさろうとしたといわざるをえない。

 また、きわめて不可解な女性である「金賢姫」の証言が最初から最後までつじつまがあわず、矛盾に満ちていることだ。これらのことについては、「破壊工作」で詳述しているので、参考にされたい。

 「横田めぐみ」騒動においても、現場と証言に食い違いが生じるなど不自然な点が多すぎる。


むやみに「北の脅威」あおるな


 ――超党派の村山訪朝団が実現したが。

 野田 こういった取材を進めていくと、マスコミが自ら現場検証をせず、ひたすら上からの情報、すなわちソウル情報や日本当局の情報をう呑みにしている姿が鮮明になってくる。まさしく、池の中にいる鯉の取り合いをしているといえる。

 その過程で、「北に対する危機意識」が膨らんでいった。その延長線上で、千葉の「羅勲さん殺人事件」が起きた。

 北を訪問した超党派国会議員団と朝鮮労働党との間で、日朝国交正常化交渉の早期再開が合意されたが、日本側は、むやみに「北の脅威」をあおるのではなく、今世紀中に生じた負の遺産を清算し、両国民の利益に合うように日朝関係を改善発展させていくために努力しなければならない。

 ――この種の事件は、真実が見えにくい。若い読者へのメッセージを込めて、どう対処すればよいのか。

 野田 これといったマニュアルはないが、国家権力の情報操作のカラクリを解くために、状況を歴史的な遠近感覚で見なければならいし、自分なりに調査、比較検証し、思考する事を習慣づけなければならないだろう。  (金英哲記者)

本のプレゼント/

 「破壊工作」定価=600円+税。宝島社。
 著者と出版社の好意によって抽選で、5人に本書をプレゼントします。ハガキに、〒住所、氏名、年齢、職業、電話番号を記し、朝鮮新報社日本語版「文化」担当係まで。12月22日必着。

【のだ みねお】
1945年、山梨県生まれ。月刊誌や週刊誌を舞台に、日本および日本人のおかれた状況を直視する仕事を続けている。「北朝鮮に消えた女 金賢姫と李恩恵を追って」(宝島社)、「周辺事態 日米〈ガイドライン〉の虚実」(第三書館)など著書多数。