当世外食事情/押野見喜八郎氏講演(2)お店の個性


料理に独自性ありますか

 わたくし、都内某所の中華料理屋さんの組合でお話ししたことがあります。

 事情をうかがったら、やはり皆さん「大変厳しい」とおっしゃる。中華もチェーンがどんどん出てきてます。例えば「バーミヤン」なんて、大したもんです。

 ちなみにお集まりになった人たちは、大衆中華のお店が多かった。

 さてその時、開口一番、わたくしこう言いました。「皆さん、お店にメニューありますか」。聞きましたらば、メニューはあると、皆さんおっしゃる。

 「店名ついてますか、メニューに」。ついてるとのお答えでした。

 「皆さんのお店のメニューの、店名の所をちょっと隠して見て下さい。そうしたら、もしかして、そのメニューってどこのお店のものか分かんないんじゃないですか」って、こう言ったんです。

 品揃えや、価格や、出てくる商品までが同じ。ラーメンと言えば判で押したように同じようなのが出てくる、なぜなんですか。餃子なんか、数まで同じ、値段も同じだって。店名だけが個性じゃないですか。

 そういうお店が町にあふれてるんです。それじゃあお客はどこ行ったっていいんです。うちのお店に来て下さいなんて言い辛いでしょ。よそと同じでなきゃいけない理由なんて何一つないのに。変な話です。

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 今、非常に話題になっている中華料理店がある。そのお店を見て参りました。 美味しかったですよ。お客はがんがん入ってます。

 料理人は全員中国人。メニューも色々工夫をこらしてますけど、この店の看板商品に「鉄鍋餃子」というのがあります。一人前用の小さなすき焼き鍋に、焼き餃子が入ってるんです。お店を見回すと、すべての卓にこれが出てます。

 厨房にも入ってみました。すると容器に、残飯みたいなものが積み上がってました。「汚いなー」なんて思って良く見ると、残飯じゃなさそうだ。で、料理人に聞いたら、餃子のアンだって言うんです。

 私も餃子のアンくらい見れば分かります。ただし、普通の餃子ならばです。

 白い物が色々まじってるので、よくよく見ますと、長芋でした。何か蕎麦みたいのが入ってると思ったら、これは春雨。普通の餃子には使わないものがたくさん入ってる。だから私、残飯だと思ったんです。

 皮も手作り、アンも全然違う、提供方法にも工夫がある。だからお客はみんなこう言います。「へえ、このぎょうざ変ってる」「ほかのどこにも無いよね」「美味しいわね」って。

 この餃子が食べたかったら、このお店に来るしかない。だからお客は、このお店めがけて来るわけです。

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 皆さんのメニューはどうでしょうか。ほかの店と同じような品揃え、同じような内容、同じような価格で売っているなら、お客はそのお店をどう選ぶんでしょうか。

 「うちはこういう店だから来て下さいね」なんて言えません。今の繁盛店は、それを言えるお店ばかりなんです。

 外食慣れした最近のお客は、当たり前の、昔からの、ごく普通のメニューにはあきあきしてる。

 今の世の中、美味しいのはベーシックな問題です。プラスアルファがないと、お客様に認めていただけない。そういう時代なんです。(文責編集部)