知ってますか――朝鮮半島初めて/タルチュム
タルチュム(仮面劇)。朝鮮半島を代表する民俗芸能で、おもに正月や釈迦の誕生日である4月8日、5月5日の端午の節句などに、咸鏡南道北青(プッチョン)から南端の釜山(プサン)の各地で、年中行事の一つとして上演されてきた。
野外の広場で仮面をつけた演者が、台詞と舞で劇を演ずる。仮面は、紙や木などを素材に黒、白、紅、青(緑)、黄の五色を使って両班(リャンバン=支配階級)や儒学者、巫女(みこ)、従者、獅子、ヨンノ(両班を食べるという想像上の動物)など様々な物に似せて作製した。
さて、タルチュムの始まりだが、もともとは呪術的な儀式だったといわれている。つまり村人の無病息災、病気にかかることなく元気に一年を過ごせるようにと、神に祈願することが目的だった。
だから、上演する前にはまず、神に供え物を捧げる儀式を行う。そして、上演後は、使用した仮面を火中に投げ入れて燃やしてしまう。仮面と共に「悪」を燃やして、村人を災厄から守る。
その歴史はといえば、新石器時代の貝面や土面、青銅器時代の盾形銅器面が出土していることから、古来から行われてきたことをうかがい知ることができる。
本来、このようにして生まれたタルチュムだが、時代の変遷の中で、とくに李朝時代後期頃から、当時の特権階級に対する批判、風刺劇へと性格を変えていった。しかし、庶民の無病息災を祈願するという本来の趣旨からして、支配階級はタルチュムの上演を黙認するしかなかった。
タルチュムに受難期が訪れたのは、朝鮮半島のすべてがそうであったように、日本による不法な植民地支配の時代で、上演が禁止されるなど弾圧を受けた。
現在、南朝鮮ではソウルの鳳山(ポンサン)、男寺党(ナムサダン)を始め、慶尚南北道、釜山、江原道など13ヵ所で伝承されているが、タルチュムが復活するまでには、植民地解放から10余年間の歳月を要した。