ニュースの眼/ベルリン朝米会談


 15日から19日までベルリンで朝米高位級会談が開かれたが、大方の予想に反して今回の会談では、なんらの合意も発表されなかった。かといって、会談が決裂したわけではない。朝鮮側首席代表の金桂寛・外務省副相は、協議の「雰囲気が良い」と述べ、オルブライト・米国務長官も24日の記者会見で「有益だった」と明らかにした。会談でいったい、何が話し合われたのだろうか。

 今回の会談は、同じベルリンで9月に開かれた会談の延長として位置づけられる。9月の会談で双方は、「経済制裁とミサイル問題を含む懸案について建設的に討論」(新聞発表文)した。そして9月17日、クリントン米大統領が、対朝鮮経済制裁の一部解除を発表し、朝鮮側も外務省スポークスマンが、同24日に朝米会談が行われている期間中、ミサイルを発射しないと表明した。

 つまり今回の会談は、前回会談の合意(経済制裁解除とミサイル発射中断)の検証・確認が議題の一つだったと考えられる。

 制裁問題では解除の範囲とその施行令が焦点。クリントン大統領が発表した内容は、あくまでも「敵国通商法」に基づく制裁措置のみで、「テロ支援国指定」による制裁措置はそのままになっている。

 今会談で朝鮮側は「国際テロ支援国指定の解除」(読売新聞20日付)を求め、米国は「爆弾テロ防止条約をはじめとする国際条約への署名などを通じて北朝鮮が反テロの姿勢を具体的に示さない限り、テロ支援国指定の解除は不可能とする立場」(同)を貫いた。

 また米政府が運営する「自由アジア放送」が今月2日、「米財務省は対朝鮮経済制裁緩和措置を施行する法規の改正作業がすでに終了した」「11月末に予定されている金桂寛副相のワシントン訪問に合わせて新しい施行令が公式に発表されると伝えられている」などと報じていることから、制裁解除施行令の具体的な内容が、今回の会談で提示されたと思われる。

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 ミサイル問題については、今回の会談で協議されたとの報道はない。ちなみに朝鮮側は自衛のためにミサイルを開発、配備しており、輸出に関してのみ補償があれば応じうるとの立場で、米国は朝鮮を「ミサイル関連技術輸出規制」(MTCR)に加盟させ、射程距離300キロ以上のミサイル開発・配備を規制しようという立場だ。

 この問題は、朝鮮半島安保の根本的な変化――駐南朝鮮米軍の撤退などがない限り、進展は困難で、また米国側首席代表のチャールズ・カートマン・国務省朝鮮半島問題担当特使の権限の及ぶ範囲でもないことから、今回の会談ではそれほど突っ込んだ話し合いは行われなかっただろう。

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 今回のベルリン会談のもう一つの議題は、ワシントンで行われるという、さらにハイレベルな朝米会談の議題とメンバー、日程の決定。報道を総合すると双方は、開催そのものについては合意したものの、日程とメンバーの選定では平行線をたどり、とくに議題問題では難航していると伝えられている。

 会談の首席代表として現在、名前が挙がっているのは姜錫柱・朝鮮外務省第1副相とウィリアム・ペリー米朝鮮政策調整官。議題については、ミサイル問題を含む朝鮮半島全体を視野に入れた安保問題が話し合われることは間違いない。

 ワシントン高位級会談の議題が難航しているのは、この会談が朝米関係において、非常に重要な意味を持つからに他ならない。

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 米国の朝鮮政策を検討してきたペリー調整官は、9月に「ペリープロセス」と呼ばれる報告書を発表した。朝鮮との関係を3段階に分けて進めるという内容で、クリントン政権がこの報告書に沿って対朝鮮政策を進めているとすると、米国はワシントン会談を第1段階(朝鮮のミサイル発射の自制、対朝鮮経済制裁の一部緩和)から第2段階(朝鮮の核およびミサイル開発の完全中断、朝米関係正常化への模索)へ移行するための会談と位置付けていると推察できる。

 一方、統一学研究所(在米)のハン・ホソク所長は、朝鮮の朝鮮半島統一戦略を(1)米国の朝鮮半島支配戦略を徐々に封じる自主化課程(2)「韓」米同盟体制を徐々に無力化する中立化課程(3)南北当事者の統一会談を通じて1つの主権国家として政治的統合を実現する連邦化課程の3段階だと説明している。

 いずれにせよ、朝米が敵対関係から修交をにらんだ新しい関係に移行する段階に入っていることは事実で、その予備折衝が、今回の朝米会談ではなかったのだろうか。(元英哲記者)

 

ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)

 ミサイル関連技術の輸出規制のためのガイドラインと規制対象となる品目リスト。当初は日米欧先進7ヵ国が核兵器等の運搬手段となるミサイル技術の拡散を防止する目的でガイドラインと規制品目リストについて合意した。規制品目リストは、「分類1」(射程300キロメートル以上、搭載可能重量500キログラム以上の弾道ミサイルなど)と「分類2」(推進燃料生産技術、航空電子機器などミサイル技術へ転用可能な高度汎用技術)等に分かれており、ミサイル技術管理体制(1987年設立)ともよばれる。(「現代用語の基礎知識 1999」より)