私の会った人/石川文洋さん


 35年間、ベトナムを追い続ける「戦場カメラマン」。このほど26冊目の著書、「写真は心で撮ろう」(岩波ジュニア新書)を書き下ろした。現像・焼付さえできないままベトナム戦争を取材、 心で撮った 体験を語りかけている。

 石川さんが初めてベトナムの地を踏んだのは、1964年8月のトンキン湾事件。以降サイゴン陥落、戦争終結まで死線をくぐりぬけてきた。

 「記者、カメラマンの犠牲者は200人近くに上る。米軍は50万人もの大軍をベトナムに送り込んで、民衆を虫けらのように殺していった」

 侵略への激しい怒りと抵抗する民衆への共感。数々の臨場感に富んだ写真は、世界中に配信され、戦争反対の国際世論を沸き立たせていった。

 世界的な報道写真家としての地歩を築いても、おごらず、権力におもねず、民衆への視線はいつも暖かく、優しい。

 訪朝は5回。83年、北京から飛行機で。85年、北京から汽車で。92、96、今年は新潟から船で。

 「朝鮮は暗い国だと一方的に思っている日本人が多い。ところが、現地で実際見るとそんなことはない。日本人と同じように喜び、悲しみ、怒りながら普通の暮らしを大切にしている。日本人の朝鮮への一方的な思い込み、偏見、誤ったイメージを正して行かねばと思います」

 その言葉通り、朝鮮の写真展の開催や写真集の出版の傍ら、多くの著書の中で、朝鮮の人々の等身大の暮らしぶりを紹介し続けている。 (粉)