「財務リストラの知恵と戦略」/蓮見正純氏の講演要旨


 金融ビッグバンの進展は、金融機関の中小企業に対する融資姿勢に変化をもたらしている。これに対応していくには、戦略の見直しや財務改善など、経営革新が求められる。9日に行われた東京都商工会政経セミナーでは、経営コンサルタント・蓮見正純氏が財務リストラクチャリング(再構築)の知恵と戦略について講演した。その要旨を紹介する。

 

変わる中小企業金融

 日本経済では今、2つの大きな変化が起きている。1つは、情報化の波だ。インターネットを利用したビジネスが急速に拡大しており、商売の「常識」を覆している。もう1つが金融取引を巡るもので、融資の基準に変化が起きている。

 新聞を広げれば、この2つの変化に関する記事が必ず載っている。これらを自分に関係のないことだと片付けるべきではない。

 小石を池に投じれば、波紋が縁まで及ぶように、変化は全体に影響を与える。

 金融取引の変化がもたらすのは、以前にも増して厳しい選別の時代だ。

 これからは「いい銀行(金融機関)」にしか預金は集まらず、銀行は「いい会社」にしか融資しない。

 「いい銀行」の基準の一つとしてあるのが、自己資本比率だ。金融機関はこれを高めるために、「借り過ぎ」企業から資金の引き揚げにかかっている。

 ここで、融資を受けられる「いい会社」の条件となるのは、良好な収益性と財務安全性だ。

 担保に頼って融資を受けていた経営から、自立したキャッシュフロー(資金流入、現金流動化)経営への転換が必要となる。

回収前提の投資

 キャッシュフロー経営では、「回収を前提とした投資」が原則だ。

 望ましい形は、(1)投資の回収が、事前に予定したペースを上回っている(2)予定した回収期間が投資物件の使用可能期間より短いことだ。これだと借入金の返済も予定通りで、かつ余剰資金の一部で新たな投資ができることになる。

 例えば、年間50億円の売上と3億円の税引後利益があがっても、借金が200億円もあれば返済に70年かかることになり、それ以上の融資など望めない。売上・利益はこれより小さくとも、余裕を持って資金返済を行える収益性こそが求められている。

情報の数値化徹底

 課題となるのは、事業戦略と財務戦略の見直しだ。

 事業戦略の見直しの土台になるのは、予算と実績の差異分析だ。果たして自分の会社が儲かっているかどうか、儲かっているならいくらなのか、計算に基づいて認識して欲しい。少なくない経営者が、「多分、儲かっている」というカンで判断している。

 情報の数値化はおざなりにされがちだが、経営者が企業をコントロールする上で絶対必要だ。従業員に対して指示する時も、数値を示すことで初めて期待した動きを引き出せる。

 財務の見直しでは、含み損の顕在化、不用不稼働資産の売却、タックスプランニング、増資などの方法でキャッシュフローを捻出する。

 含み損を顕在化させるには、例えば次の方法がある。事業で収益が上がっているのに含み損のある不動産を所有している場合、子会社や関係会社に売却して売却損を出す。債務保証している赤字子会社は精算して貸倒損失を計上する。ただし、いずれも一定の条件を満たす必要があり、税理士に相談すべきだろう。

 近年、設立から短期間で株式を公開する企業が顕著に現れている。公開を視野に入れ、間接金融から直接金融への転換を考慮して欲しい。