国連職員として2年間平壌に滞在したワインガードナー夫妻が報告会/東京


朝鮮の農業、「ゆっくりよい方へ」/2毛作、ジャガイモ栽培、土地整理が要因

日本の援助切々と訴え

 1994年以来の自然災害で食糧不足にあった朝鮮では、今年に入り、豊作が伝えられるなど農業で好転の兆しが見える。近年、朝鮮では被害克服のため、2毛作などを推し進め、食糧問題の解決に努めてきたが、この間の食糧不足や復興をバックアップしてきたのが国際社会の支援だ。15日、東京の日本キリスト教会館で、国連職員として97年5月から2年間、平壌に滞在し、世界各国からの支援物資の配給とモニタリングなどを行なってきたワインガートナー夫妻の講演会が行われ、農業の状況や人々の暮らしぶりが報告された。報告会は18日、大阪でも行われた。

朝鮮全道、家庭にも

 国連世界食糧計画(WFP)の平壌NGO食糧支援連絡局の初代局長として勤務した夫エリック氏は、朝鮮で居住資格を取得した初のNGO代表だ。世界各国からの支援物資がきちんと届いてるかをチェックするのが役目で、NGOの人道援助プログラムも作り上げた。ランドクルーザーで朝鮮の全道を訪れ、各地の保育園、孤児院、病院、農場、また家庭も訪問し、物資を届けた。

 ワインガートナー夫妻は現地で撮った写真をスライドで見せながら、約1時間にわたって報告を行った。

 今年に入り朝鮮では、経済に全責任を持つ内閣の機関紙民主朝鮮が「豊年」(10月8日付)を報じるなど、農業の好転が伝えられている。エリック氏は「ゆっくりだが良い方向に向かっている」としながら、その要因を、国家が力を入れている2毛作や土地整理事業にあると指摘。具体的には(1)被害を受けた堤防修復にばく大な努力が費やされている(2)2毛作が成果を収め、冬まきの小麦や春まきの大麦が食糧不足を助けている(3)ジャガイモ育成に関心が高く、朝鮮の専門家がカナダを訪問している(4)畜産や魚の養殖に力を入れている―などを挙げた。個人や集団における、高レベルの労働力と独創性も要因だと述べた。

子供の栄養深刻

 その一方でエリック氏は、状況は「依然困難」と述べ、「病院の施設や器具が古く、トラクターも部品や燃料が不足している」ことを指摘した。

 エリック氏と共に平壌に滞在し、国連児童基金(ユニセフ)やWFPのスタッフとして勤務した妻マリリン氏は、WFP、ユニセフ、EUが共同で行った「子供の栄養調査」(98年11月発表、朝鮮の70%の家族を網羅)に関わった経験を述べた。

 「生後6ヵ月から7歳の子供の16%が急性の栄養失調で、これは世界の第四位の数値。さらに深刻なのは生後12ヵ月の乳児の18%が栄養失調で、この数値は母親も栄養失調であることを示している。生後12〜24ヵ月の乳幼児の3分の1は栄養失調だが、この年代は、脳や運動機能の発達段階にあり、免疫機能も完成する。生涯において半永久的な障害になりかねない」と緊迫した状況と支援の継続を訴えた。

支援団体も多数参加

 2年間、支援を現場で支えてきた夫妻は、最後に開城市の孤児院の子供のスライドを見せながら、「食糧支援は確実に朝鮮の人々の命を救っている。この子が、はるか遠くに自分の命を救ってくれた人々がいたことを知りつつ成長し、大人になった時、平和が訪れるだろう」と力説した。

 現在、日本政府は「ミサイル発射」への制裁措置として朝鮮に対する食糧支援を中断しているが、エリック氏は両国間に存在する緊張を緩和するためにも「信頼、友好の扉を開く食糧支援が求められている」としながら日本の積極的な支援を再三訴えていた。

 参加者の中には、近年たゆまない支援を続けているNGO関係者も多く「日本の支援を全体的に把握する人を平壌に置くべき」「子供たちの健康を守るための支援を」など前向きな意見が出されていた。(韓東賢、張慧純記者、6面に朝鮮農業「Q&A」)