川崎市外国人市民代表者会議の同胞委員に聞く


 現在、川崎市以外にも東京都、神奈川県、大阪府などが外国人の声を反映する会議を設けている。在日同胞の生活を守る上で、会議の意義はどこにあるのか。同胞の委員に聞いてみた。

 

ニューカマーと協調/差別の根本にメス

制度的差別、声積み上げ政府へ

 川崎市外国人市民代表者会議のメンバーは、植民地支配により日本に住むことになった在日同胞以外の外国人―いわゆるニューカマーが全体の3分の2以上を占める。このため、同胞固有の問題と彼らのニーズをすりあわせることの難しさがある。実際初期の提言には、外国語による広報の充実、留学生の支援など、日本に来て間もないニューカマーにとって切実な問題が多く反映された。

 教育部会の副部会長を務める元川崎朝鮮初中級学校校長の尹日赫さん(61)は、会議に参加しながら、在日同胞を取り巻く状況の変化をつぶさに見れたと話す。

 「外国人の代名詞だった朝鮮人もいまや全外国人の過半数を割った。部会では宗教上の理由で給食メニューの○○が食べれない、母国語を学びたいなど、日本学校に子供を送る委員たちの様々な要望が出ている。しかし、数人の外国人生徒のために母国語を教える教師を置けるかとなると、なかなか難しい。自力で学校を運営している私たちとは抱える問題は違うが、彼らの要求がなぜ現場で理解されないのかという背景を知ることが、一番大事」

 尹さんは、これからも他の外国人の問題を理解・支援するとともに、朝鮮学校の制度的保障などの実現のため、独自の運動を進めていく必要があると話す。

 会議が年に一度まとめる提言には、無年金状態に置かれている外国人高齢者への年金支給、外国人学校の処遇改善など国の制度的差別の解消を求める内容も少なからず反映された。

 地域生活部会の゙在龍さん(63)は「3年間、泡を飛ばしながら論議してきたが、市の権限では解決できない問題が多い現実が浮き彫りになった」と指摘しながら「今は、地域で声を積み上げることが大事。その声が国の差別を変えることにつながる」と話す。

 委員らは、入居差別を禁じる条例制定を求める際、対象を外国人に限らず、同じように差別を受ける高齢者、障害者にも枠を広げた。

 議長の李仁夏さん(74)は「外国人が、自らが受ける差別を解消することが日本社会、他者にとってどういう意味を持つかを考えるべき。同胞が徹底して弱者の視点に立ち、運動の経験を生かすことが、日本社会を変えることにもつながる」と指摘する。

 

会議の仕組み

市長の付属機関/年に一度提言

 川崎市内の外国人の数は、1997年に2万人を突破し、99年3月現在2万458人。市民の1.66%を占める。増え続ける外国人の声を反映させようと考えられたのが外国人会議だ。

 96年に条例で設置された同会議は、外国人市民が自らに関わる問題を調査、審議する機会を保障し、外国人の市政参加を進めるのが目的。会議は市長の付属機関と位置付けられているが、自主的に運営され、会議で決めた議題を調査、審議して提言にまとめ、年に一度、市長に提出する。16ヵ国26人の委員からなる同会議は教育、地域生活の2部会に分かれて議論が進められている(在日同胞は6人)。

 同会議は恒常的な機関としての、外国人の市政参加の仕組みとしては全国で初の試みだったため、当時、全国から注目が集まった。川崎市が政令指定都市で初めて無年金状態の外国人高齢者に給付金を支給(94年)したり、文部省の反対を押し切って、朝鮮高校卒業生に川崎市立看護短大の受験資格を認める(96年)など、他の自治体に先んじる施策を講じてきたことも注目を集める要因だった。

 会議が作成した提言が、いかに市政に反映されるかが課題になるが、初年度の提言に盛り込まれた入居差別禁止の条例は、来春の施行に向けて作業が進められている。(表参考)

 

川崎市外国人市民代表者会議の提言と現在の状況

  提言 現在の状況
年金差別 外国人高齢者への年金支給を国に働きかけ、市外国人高齢者福祉手当(98年度現在、月1万8000円)の増額を図る(98年度) 10月から福祉手当を月2万円に増額(99年3月議会で決定)
市議会議長が外国人高齢者に対し、年金適用を含めた福祉の改善を求める意見書を国に提出(99.10)
受験資格 外国人学校卒業生の国立大学受験資格を認め、同校に私立学校と同等程度の補助金を交付することを、文部大臣に働きかける(98年度) 市議会が川崎民族教育推進協議会の提出した陳情書を採択し、国に要望書提出。市長も首相と文部大臣あてに要望書(98.12)
入居差別 入居差別を禁止する条項を盛り込んだ「川崎住宅条例」(仮称)を制定する(96年度) 「川崎市住宅基本計画」を改定(99.5)
来春に住宅基本条例制定予定
外国語

広報

外国語による広報を充実し、外国人市民向けの情報コーナーを設置する(96年度) 「外国人市民への後方のあり方に関する考え方」を策定(98.4)
各区の区役所・市民館・図書館に「外国人情報コーナー」を設置(98.6)
相互理解

教育

教育委員会に、外国人と日本人の子供の相互理解を深める教育を、総合的に推進する体制を整備する(96年) 「川崎市在日外国人教育基本法」を改定、推進組織の整備拡充(98.4)
民族文化講師ふれあい事業の実施(97.4)