金融ビックバン/変わる資金調達――中小企業に期待と不安


 景気回復の遅れにより、中小企業を取り巻く経営環境は依然、厳しい。しかし同時に、ベンチャー・中小企業群は、金融ビッグバン、経済構造改革の行く末を左右するものとして改めて注目を集めている。改革が中小企業にとって意味するものと、今後の見通しについて見た。

 

恩恵

1200兆円を分配

 「中小企業は新たな雇用や産業を生み出す担い手」「その振興こそが日本経済新生のカギになる」

 小渕恵三首相は「中小企業国会」と名付けた臨時国会の所信表明演説でこう指摘し、中小企業政策に一層の力を注ぐ姿勢を示した。

 経済構造改革の主要な狙いは、市場原理に基づくリスクマネーの供給によって、中小企業を経済の活力源に育てることだ。

 日本の大企業は80年代から、資金調達において固定的な元利の返済を要求される銀行からの借入(間接金融)を嫌い、社債発行など、収益に対応した配当を前提とする直接金融方式に移行した。

 しかし、中小企業は今日に至るまで金融機関からの借入への依存度が高く、昨今の貸し渋りでも相対的に大きな影響を受けた。

 外為法改正、株式売買委託手数料の自由化、業際規制の撤廃などによる金融ビッグバンは、1200兆円に上ると言われる日本の個人金融資産の流動性を確保して投資に向かわせようとするものだ。

 資金確保の機会を広げ、間接金融からの脱却を促すことで中小企業に活力を与え、さらには起業者が動きやすい社会の構築を目指す。

 実際、米証券業協会を柱とする「ナスダック・ジャパン」、東京都の新社債市場、東証の「マザーズ」など、新興企業を対象とした新しい証券市場構想が動きだしている。

 10月には、同胞に関係の深いパチンコ・パチスロの未公開企業を対象にした証券会社が、営業を始めた。

 

条件

財務・成長力しだい

 ただし、中小企業側の認識は必ずしも前向きではない。

 財団法人・商工総合研究所は昨年11月、中小企業を対象にビッグバンに関するアンケート調査を実施。1189社から回答を得た(詳細別掲)。

 それによると、今後も金融機関からの借入という「調達手段は特に変わらない」と回答した企業が97%で圧倒的に多かった。

 もっとも、変えたくても変えられないのが現状とも言える。社債を発行したことがある日本の中小企業は全体の1%に過ぎないというが、資産規模など必要条件がそろわないことが大きな理由になっている。

 しかし間接金融に依存するにしても、金融機関とて生き残りのために収益性の強化、リスク管理能力の向上に努めるはずで、中小企業に対する融資姿勢が変化する可能性が高い。

 中小企業庁の調べでは、金融機関は貸出の基準として、これまでの取引実績より、将来性や成長性、経営手腕などを重視する傾向が強い。

 いずれにせよ、未曾有の低金利、老後の不安、確定拠出型年金(401k)の導入などを背景に手頃な金融商品が増えれば、個人金融資産の相当部分は投資へと動くと見られる。

 そこで恩恵を受けられるのは、自らの意思で金融機関を選択できたり、店頭公開や社債発行などでリスクマネーを引き寄せる財務内容、成長力を有している企業に限られて来る。

 日本経済の転換点にあって、中小企業もまた、革新を迫られていると言える。(金賢記者)


中小企業の影響――「厳しい」/中小企業アンケート

 商工総合研究所のアンケート調査によると、ビッグバンの進展によって、金融機関の中小企業向け融資が量的に緩和される可能性が高いと言われていることについて、「そう思う」と答えた企業は35%。残る65%が、「そうは思わない」と答えている。

 さらに、融資の量的な緩和があったとしても、その恩恵にあずかれるのは財務内容の良好な企業に限られるかどうかについては、97.5%が「そう思う」と回答した。

 ビッグバンが自社に及ぼす今後の影響については、金融機関の貸出抑制など「厳しい面が多い」とする企業が31.5%で最も多く、「プラス面が多い」は9.3%にとどまった。

 以上のような調査結果からは、多くの中小企業が今後の成り行きに不安を感じており、新しい金融システムに対応する青写真を描けないでいる様子が見える。