ニュースの眼/中央日報・言論弾圧のてん末


 南朝鮮の有力紙中央日報社長の巨額脱税事件に端を発した言論統制事件は、野党「ハンナラ党」が4日、釜山で「金大中政権言論抹殺糾弾大会」を開くなど「権力対言論」のたたかいから与野党対立へと発展し、泥沼化の様相を呈している。それぞれが相手を非難しあっているのだが、市民の目から見ると政府、与野党、マスコミすべてが「同じ穴のムジナ」である。

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 事の起こりは検察当局が中央日報の洪錫R社長を脱税容疑で逮捕(10月2日)したことだった。これに中央日報側が強く反発。洪社長の逮捕は、言論弾圧だとして、政府が中央日報の記事の差し替えや人事に介入したとキャンペーンを行った。

 一昨年の「大統領選挙」で同紙が金大中の対立候補の李会昌「ハンナラ党」総裁を応援したことを根に持っての弾圧というのが中央日報の言い分。

 一方、政府は「国税庁の調査課程で、中央日報社から様々なチャンネルを通じて、洪氏が社長職から退き、すべての経営陣人事を政府の要求どおりにするので善処してくれるようにと提案してきたことがある」(大統領府スポークスマン)と応酬した。これが第1ラウンド。

 「李会昌が大統領になった暁には洪錫R社長が総理になるという密約」が、あったとか無かったとか騒がれたのもこの時期だが、全体的には中央日報の分が悪かった。

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 第2ラウンドは、「ハンナラ党」の鄭亨根議員が10月16日の「国会」で、「洪社長の逮捕は(政権に)批判的な言論を抹殺し、政局を有利に進めていくためであることを立証する文書を入手した」と暴露して始まった。

 「成功的改革推進のための外部環境整備方案」と題するこの文書には、マスコミを野党および市民社会の反湖南(全羅南北地方)情緒と分離し、衝撃療法を通じた局面転換をはかり、定期国会開催前の8月末までに新しいマスコミ対策を電撃的に実施すべきだという内容が書かれていた。

 鄭亨根は安企部(現在の国家情報院)の対共捜査局長、第1次長を務めた人物で、かつて金大中の容共キャンペーンにも深くかかわっていた。彼は「大統領府の前政務首席補佐官だった李康来氏が極秘裏に作成し、現与党の実力者を通じて大統領に報告した」(10月25日)と主張した。

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 これで政府・与党は一気に守勢に立たされるのだが、今度は与党「国民会議」が10月27日に問題の文書が中央日報の記者(昨年8月より休職、現在北京留学中)が作成したと発表し、翌28日には「ハンナラ党」と中央日報側が文書は「国民会議」の李鍾賛副総裁に宛てられたものだと暴露。そして同日夜には鄭亨根が、平和放送の記者から文書を入手したと発表して事件は第3ラウンドに突入した。

 平和放送の記者が李鍾賛の事務所から同文書を盗み、鄭亨根から数回に渡って数千万ウォンをもらっていた事実も明らかになり、検察に逮捕(1日)された。

 以上が事件のてん末だが、(1)中央日報記者が文書を作成し、李鍾賛に渡した動機(2)李会昌、鄭亨根と平和放送記者の関係(3)李鍾賛が安企部の文書を持ち出した経緯(4)文書が「大統領府」に報告されたかどうか(5)他の文書の存在(6)政府の言論統制事実の有無など解明されるべき問題が山積している。

 現在、李鍾賛が検察に出頭して事情聴取を受けるなど捜査は進められているが、検察が「政権」に不利な捜査結果を発表したことがないという南朝鮮の実状を考えると、真相解明は期待できない。

 ただ明白なのは、南朝鮮の現「政権」が、かつての独裁政権と同じようにマスコミに圧力を加えていることと、マスコミも「政権」と癒着しているという事実だろう。(元英哲記者)