春夏秋冬
作者の桐生操とは2人の女性のペンネームで、盗作疑惑があるとか「本当は恐ろしいグリム童話」は、なにかと話題が多い。昨年7月に発売されて以来、「パートU」を含めて250万部以上、売れたというから大ベストセラーである
▼幼い頃、グリム童話には、ずいぶんお世話になった。どちらかというと、グリムよりもアンデルセンの方が好きだったのだが、寝床に入って本を読みながら、その続きは夢で見ようと目を閉じるのだ。でも、「本当は恐ろしいグリム童話」を読んで、夢がまったく壊れてしまった
▼「白雪姫」の父親がロリコンで、娘と近親相姦し、嫉妬(しっと)した母親が執ように娘の殺害を企て、助けた王子は「死体愛好症」で、「白雪姫」が母親に残酷な方法で復しゅうするという展開だ
▼実は、グリム童話は7版まであって、子どもの頃、読んだ童話集が、最終版だということを最近知った。初版本が出た後、読者からそのままの物語では子どもたちに聞かせられないという意見を、グリム兄弟が採り入れて手を加えたのだ
▼東京外国語大学の野村●(ひろし、●はさんずいに玄)名誉教授は、最近のブームについて「ホラーや残酷さを好む風潮にのって、グリムもこんなに残酷、と掘り出して楽しんでいるような感じがする」(毎日新聞27日付)と分析する。同感だ
▼父親として子どもには絶対残酷な場面を見せたくない、「本当は恐ろしいグリム童話」に出てくるような、人間には絶対に育てたくない。だからこそグリム兄弟が手を加え、その最終版を世界の人々が愛したのだと思う。これが人間の英知だと信じている。(元)