核武装論議への口火/西村防衛次官発言
西村真悟防衛政務次官が、19日発売の「週刊プレイボーイ」誌の中の対談で、日本の「核武装」論を展開した問題について日本政府は、西村次官を更迭することで一件落着をはかろうとしている。「核武装」発言は、あくまでも西村次官個人の問題として処理しようとしているのだが、そんなに単純な問題ではない。西村発言の背景に日本の保守反動勢力の本音が見え隠れしているからだ。
背後に保守反動層の本音/朝鮮半島がターゲット
第2次大戦と同じ論理
「プレイボーイ」誌との対談で西村次官が発言した内容を整理すると、八紘一宇(目的)、核武装(手段)、となる。八紘一宇(はっこういちう、世界を一つの家とすること=広辞苑より)を実現するために核武装し、その手始として朝鮮半島への軍事介入を行うということだ。
日本が太平洋戦争へと突入する直前の1940年7月26日、当時の近衛内閣は「皇国の国是は八紘を一宇とする肇国(ちょうこく)の大精神に基づき世界平和の確立を招来することを以(もっ)て根本とし、先ず皇国を核心とし日満支の強固なる結合を根幹とする大東亜の新秩序を建設するにあり」とする「基本国策要項」を決定した。平たく言うと、日本を中心とした世界秩序を形成すると言うことになる。
当時、日米関係は、アジアの覇権をめぐって最悪の対決状態にあり、米国は経済制裁を科すなど対日圧力をいっそう強めていた。そして日米交渉が決裂し、日本は武力でこれを突破する道を選択したのだ。
現在も通商関係で日米は、「戦争直前」の状態にあると言っても過言ではない。米国が日本に対してダンピング(不当廉売)バッシングし、日本がそれをWTO(世界貿易機関)に提訴するといった泥仕合が続いている。そして、その対日圧力を突破する手段が核武装…。これは決して絵空事ではない。
通常兵器で日本は、絶対に米国に勝てないようになっている。しかし、日本が核武装した場合、その構図は逆転する。すでに日本は人工衛星打ち上げロケットを所有しており、これはそのまま大陸弾道弾ミサイルになる。そのミサイルに核弾頭を積めば、少なくとも日本は米国と対等に渡り合えるようになる、と日本の保守反動勢力は考えているのだ。
全面否定せぬ核保有
このシナリオは、米国にとって最悪のものだ。事実、キッシンジャー元米国務長官は21日に開幕した「99ソウル経済フォーラム」で、「日本が核武装する可能性はあり、この場合、アジア全体の打撃になる」と述べている。彼は国務長官在任時の1974年11月、南朝鮮の核開発と関連してソウルの米大使館に「南朝鮮の(核開発)意図が近隣諸国、特に北朝鮮と日本に与える衝撃のために(米国の憂慮が)深まっている」との電文を、フォード大統領(当時)の同意のもとに送ったことがある。
また昨年6月、参院予算委で佐藤謙防衛庁防衛局長(当時)は「核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項(憲法第9条第2項)の禁ずるところではない」と述べ、大森政輔内閣法制局長官(当時)も「核兵器の使用も我が国を防衛するために必要最小限のものにとどまるならば、それも可能」と答弁した。
さらに技術、採算、安全面から諸外国がプルトニウムの再利用を撤回し、日本でも「もんじゅ」の事故などが起きているにもかかわらず日本が大量のプルトニウム備蓄を進めているという事実がある。プルトニウムは核兵器の原料になるからだ。
一個人の問題にあらず
「小渕首相は今回の内閣改造で特に政務次官人事を重視し、『内閣の命運を左右する』として自ら人選」(読売新聞23日付)した。そういう意味でも西村次官の発言は、一個人の問題としては済まされない。
それどころか、平素から極右的発言を繰り返している彼を防衛政務次官に起用することで、日本の「核武装論議」の口火を切ろうとしたのではないかという疑念さえ起きてくる。そして、その対象が朝鮮半島に向けられているという事実を、見過ごしてはならないだろう。 (元英哲記者)
発言内容
(国軍の創設に関して)「『大東亜共栄圏、八紘一宇を地球に広げる』や」、(核武装について)「核を持たないところがいちばん危険なんだ。日本がいちばん危ない。日本も核武装したほうがええかもわからんということも国会で検討せなアカンな」(発言順)