生き方エッセ―/温かいトンポトンネを 邵哲珍


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 それはもう、ただただがく然とするばかりだった。総聯大阪・生野南支部に同胞生活・法律相談センターを開設し、様々な相談の解決に奮闘する毎日だが…。

 それは知人からの依頼だった。ある知り合いが、不況の中、訳あって母親の面倒を見れずに悩んでいるので、民生の手続きに掛け合ってほしいという。そこで早速、その家を訪ねた。

 「アンニョンハシムニカ、チョンリョンチブイムニダ」(こんにちは、総聯支部です)と声を掛ける。しかし、状況は想像とはまったく違う方向に転がった。

 80歳を過ぎたそのハルモニ(お婆さん)は「うちはお金ないから帰ってな」「勘弁してや」と、日本語とサトゥリ(朝鮮語の方言)の混ざった言葉で、怒るように、また祈るように言うのである。言葉が通じないらしく、身振り手振りでゆっくりと話そうとするが受け付けず、とうとう泣きそうになってしまった。

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 私は思わず家を飛び出した。ショックだった。ハルモニはなぜ私を追い返したのか。日本語は話さなかったし、ほかの既成団体の名も口にしていない。やはり、「チョンリョン」(総聯)に反応したのだろうか。

 過去、1世は身を粉にして働いて得た財産を、祖国と組織のためにと惜しみなく出した。このハルモニも例外ではあるまい。だが、他方、祖国と組織を軽視する層も増えてきた。本国一辺倒主義は嫌だという風潮の中、祖国、愛国、国家という言葉を忌まわしいイメージに捉えているとも言える。

 時代の流れ、世代の交代、意識の変化…。われわれはそこに対応できずに、大きな落とし穴にはまってしまったのだ。

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 介護保険制度の要介護認定申請が今月から始まった。大阪市では来年4月から、平均約3200円、最低でも1700円は無条件で「徴収」される。

 だが、定住外国人が制度を十分に認識し、介護サービスを公平に受けられるよう、行政が積極的な対策を取っているようには思えない。無年金者は保険料をどう支払うのか。言葉の壁は、介護者とのコミュニケーションは…。問題は山積みである。

 先程の話だが、真相を知ったハルモニが、申し訳ないことをした、もう怒って来てくれないのではと落胆していると聞き、今度こそはと再び訪れた。そして、ようやく事情を聞き、手続きに入った。深々と謝られたので、こっちが恐縮する。

 事前連絡ができなかったことから起こった今回のハプニングを機に、私は固く心に誓った。ハラボジ、ハルモニに優しく、温かいトンポトンネ(同胞の街)を目指して頑張ろう!

 (そ・ちょるじん 大阪市生野区在住、生野南同胞生活・法律相談センター事務長)