取材ノート/千葉殺人放火事件から1年
総聯千葉支部の羅勲副委員長が殺され、現場の千葉朝鮮会館が放火された事件から、今月15日で1年になる。
警察の捜査に、進展は見られない。真相はまったく分っておらず、「犯行は計画的で複数犯の可能性がある」との見方があるに過ぎない。
だが取材していると、同胞を含めた色々な人から色々な「犯人説」を聞く。「プロの仕業」「日本人のやり方ではない。外国人ではないか」。一部の「ジャーナリスト」に至っては、「北の自作自演」とまで書いている。
こじつけと悪意に満ちた「自作自演」説はともかく、普通の人々が「何が起きているのか」を理解したい余り、自分なりの推理を試みるのは理解できる。かく言う記者も、事件現場に初めて足を踏み入れた時、とっさに「テロ」の2文字が頭に浮かんだ。理屈ではなく、肌で感じたものだった。
しかし、どんなに直感が働いたとしても、客観的材料の裏付けがなければ憶測の域を出ない。
私たちにとって大事なのは、公正かつ徹底した捜査を警察に働きかけつつ、真相が解明されたら、全力を上げて禍根を断つことだ。憶測に基づいた「説」が一人歩きするようなことになれば、逆に真相への関心は薄れ、事件は風化していくかも知れない。
今や日本社会は、朝鮮民族や共和国への不信、反感を助長する「情報」であふれ、少なくない人々がそこに絡めとられているのが現実だ。
ルソーは「理性や判断力はゆっくり歩いてくるが、偏見は群をなして走ってくる」と語った。
その「群」をしずめて理性に呼びかけるには、物事の裏にある構図や仕組みを示して見せる必要がある。在日朝鮮人は自らを守るためにも、真相の追求者であるべきだ。(金賢記者)