サバイバル焼肉戦争の現場(上)/売上業界1位安楽亭


 在日同胞が生み、育て、民族産業とも言われる焼肉業界。しかし、外食産業の一角を占めるまでに発展した今、業界の様相は「同胞の生業」的なものから、シビアなビジネスへと確実に変化している。中小店を追いまくる売上トップ企業の戦略を中心に、生き残りをかけた「焼肉戦争」の現場をルポする。(金賢)

 

どんどん下げる

 都内や近郊の幹線道路を車で流していると、ファミリーレストラン風の大型焼肉店「安楽亭」(本社=埼玉)を目にすることが多くなった。FCを含め約250店舗を展開、昨年の売上が260億円という業界最大のチェーン企業だ。

 目下、数年内の500店舗・年商500億円達成を目指し、関東エリアに続々と出店。売上高は毎年10〜20%伸びている。

 戦略は、典型的な薄利多売だ。「低価格で日常的に楽しんでもらう」というのが柳時機社長の方針。牛肉をアメリカから直接買い付けるなど、スケールメリットを生かした「破格の安さ」で、市場に強くアピール。

 昨年から今年春までの間には3度の値下げを行い、430円だったカルビが380円に。客単価は1800円以下だが、今後も「下げられるところはどんどん下げて行く」(柳社長)という。

 

現在は棲み分け

 競争の現場はどうか。

 東京の下町・葛飾区亀有は、JRの駅から半径500メートル以内に焼肉店が10数店ある。新店が出ては消える激戦区だ。そこに今年2月、安楽亭が直営店を出した。

 「初めは多少お客さんを持って行かれましたが、今は回復してます。うちとは客層が違いますね」

 2フロア・120席と地元で最も大きい「錦城苑」の専務、李永日さん(30)はこう話す。安楽亭と環状7号線を挟んで向かい合う「珍味苑」(42席)の崔点成さん(51)も、「影響はゼロ」と語る。錦城苑は34年、珍味苑は23年と歴史も古く、常連客との結び付きは強い。

 価格差があっても「うちの味、うちの美味しさを大事にしてます」(李さん)、「ここで焼肉を覚えたようなお客ばかり」(崔さん)といった強みが、棲み分けを可能にしている。

 

商品開発は脅威

 長期的でマクロな視点から見ると、この棲み分けにも不安材料はある。

 外食産業総合調査研究センターの調べでは、98年度の外食市場はマイナス成長となった。一方で、売上トップ100社のシェアは伸びている。小さくなるパイを、強者が独占する構図だ。

 安楽亭に代表される安売りチェーンは、市場へのアプローチを「味」と「店主の顔」という従来のスタイルから、「安さ」に転換したに過ぎない。「競争が激化する外食産業で生き延びるには大量出店が必要」というのが柳社長の読みだ。今は競合していない店でも、いつかはパイの取り合いになる可能性があるのだ。

 実際、安楽亭と同じ郊外ロードサイド型の焼肉店を構える同胞経営者を中心に、「数百億円を売り上げる企業の商品開発力は半端じゃない。味だって、以前よりはいい」との危ぐ感が広がっている。

 業界が様変わりする中で、どれだけの業者が「焼肉ビジネス」の波に乗れるか――民族産業の明日に関わる問題と言える。(次回は「焼肉屋さかい」)