熱気であふれた第15回総聯各級学校教員の教育研究大会から
23〜24日、東京で行われた第15回総聯各級学校教員の教育研究大会。東西2ブロックで分散開催された97年1月の第14回大会以来2年ぶり、全国規模の大会としては90年1月の第13回大会以来9年ぶりとなる。「子供たちのためにもっと質の高い授業を」――分科会会場となった東京朝鮮中高級学校は、全国各地から集まった教員たちの熱気であふれていた。(東)
朝鮮学校の研究活動
分科別に研究活発/教材作りに意見反映も
各朝鮮学校では、日頃から活発な教育研究活動が行われている。教科別に校内での分科活動、地域別の分科活動も盛んだ。
数年ごとに開かれる教研大会はその集大成の場。1957年から、教育研究中央集会、教育方法研究大会、教育研究大会と名を変えながら続けられてきた。
今大会の研究発表は、幼稚班、初級部1年、社会、国語、算数、理科、日本語、中高級部の現代朝鮮革命史、社会・歴史・地理、国語、数学、理科、日本語、英語、初中高級部の保健体育、音楽、美術の17分科に分かれて行われた。各分科会では、レポート発表だけではなく、実際に生徒を入れた模範授業、参加教員らを生徒に見立てた模擬授業など、多彩な方法で研究成果が発表された。
いずれの分科でも、93年から実施されている新カリキュラムの要求、教材の内容を深く把握し、そのレベルに沿った授業を行うための様々な研究と実践が報告された。多くの分科で、朝鮮学校の特長と言える初中高の連携を生かした研究が行われていたのが印象深い。模範授業、模擬授業は、どれも洗練された方法論を駆使し、創意工夫が凝らされたもので、生徒ならずとも思わず引き込まれるレベルの高いものだった。
また教研大会では、朝鮮大学校教員や学友書房(朝鮮学校の教科書、児童・生徒向け雑誌など教育分野専門の出版社)社員など、教科書編纂に直接携わる関係者も多数参加し、ともに意見交換を行う。教科書編纂に実際に参加している教員も多い。こうして朝鮮学校の教科書・教材は、現場教員の声を反映しながら改善を重ねていく。
2002年度から日本の公立小中学校では完全学校週5日制の実施に伴い、カリキュラム、教科書ともに大きく変わる。これに対応し、朝鮮学校でも2003年度からの実施を目途に教科書を改編する予定だ。
各分科では、この教科書改編を目指してさらなる研究を重ねていくことが話し合われていた。
民族性と母国語
話し言葉に重点/朝鮮人として「生きる力」を
全体会議で総聯中央教育局長は民族性をテーマに講演し、とくに母国語教育について強調した。民族性、とりわけ母国語は、民族教育のメインテーマと言っていい。
初級部、中高級部の各国語分科で発表されたレポートのうち半数は、「マルハギ(話すこと=スピーキング)」に関するものだった。中2国語の模範授業も、文学作品を読解する教材を使いながらもそこに出てくる話し言葉の練習に重点を置いていた。日常会話に使える台詞を相手などのシチュエーションによって変化させながら巧みに反復させ、生徒に会話力、表現力を身に付けさせる授業だ。分科会でも、ただ読んで聞かせる授業方法からの脱却がしきりに強調されていた。
幼稚班、初級部1学年の各分科では、遊びなどを通じて言葉はもちろん民族の風習に慣れ親しむ多くの試みが紹介された。
また社会、歴史、地理など社会科目の各分科でも、在日朝鮮人である自分を知り、主体性を持って生きていくための力を養うための数々の授業実践が報告されていた。日本の教材や研究にも、ましてや本国のものにも頼れない民族教育独自の分野だけに教員らの研究意欲は高く、力の入ったレポートが多数発表された。とくに高級部社会ではメディア・リテラシー、つまり、マスコミの情報を鵜呑みにせず自分で選び取る力を育むための授業実践とその結果が報告され、関心を集めていた。
生徒主体の授業へ
興味引く方法論豊かに/ゲーム、ディベートなど工夫
児童・生徒の興味とやる気を引き出す授業、彼ら主体の授業を行うための方法論の研究も進んでいる。
初級部の算数、理科では各種教材、道具類を使い、抽象的な概念を視覚的に理解させる工夫が盛んだ。「(計算などが)できる」から「分かる」への転換を図っている。中高級部の数学、理科でも、ゲームを取り入れたり、環境問題など実際の生活に結びつけて考えさせる試みがたくさん行われている。2002年から日本の学校では既存教科の枠を超えた幅広い内容で教員が自由に授業を組み立てられる「総合的な学習の時間」が導入されるが、中高級部理科分科では、この内容を取り入れた研究レポートもあった。
各級日本語分科では、聞いて考え話す力を伸ばすディベート、豊かな感性を育む読書や作文指導の実践が数多く紹介された。
英語分科でも、コミュニケーション能力を育む授業、英語を通じて創造力を養う授業の研究が報告されていた。中2の模擬授業もすべて英語で進行し、生徒がグループ別に英語でクイズを考え出題するという楽しくレベルの高いものだった。
音楽や美術では、豊かな感受性と民族的情緒を育てるためのあらゆる方法論研究が行われており、保健・体育では、時代のニーズに応じて食や健康に関する教育や性教育などが幅広く取り入れられていたのが特徴的だ。
障害児教育
学校適、組織的な対策必要/今後に向け問題提起
今大会で注目されたのは、初級部1学年分科で行われた障害児教育と関連する調査発表と報告、意見交換だ。
全初級学校(併設も含む)を対象にしたアンケートは教研大会事務局の名前で9月末〜11月末に行われた。76校中、期限までに回答があったのは24校で、そのうち、在校生に障害児がいると答えたのは13校でその数は17人。
障害の種類では、多かったのがLD(学習障害)で8人、次が緘黙(かんもく)や自閉などの情緒障害で4人(これらの判断はアンケートの回答に従っている)。
調査報告は、様々な背景のもと、朝鮮学校の門を叩く障害児の数が増加していると指摘。担当した教員らは熱心に学びながら愛情を持って接しているが、当面の課題として@医療など専門機関、家庭との協力A各地の担当教員相互の交流、情報交換B全学校的な取り組み――などが必要だとした。
さらに将来的には、民族教育における障害児教育の位置づけを明確化し、それに沿った体制作りを進める必要があり、そのためには専門的に研究、審議する機関を設置し、父母たちと意見交換をすべきだと指摘した。
続いて泉州朝鮮初級学校(大阪・泉大津市)の金順子教員が、LDの男子児童、知的障害と場面緘黙の女子児童を2年間受け持った経験について詳細なレポートを発表した。
20余年前、自閉症児を受け入れたが経験もなくきちんと対処できず、その児童が日本の学校に転校してしまったことに今も責任感を感じるという金教員。受け持ったクラス14人中2人が障害児だったことに改めてこの問題に取り組む重要性を痛感し、今度こそはきちんと向き合おうと努力を重ねたという。
金教員のレポートは結論として◇在日朝鮮人運動において障害児(者)と共に生きていく姿勢と立場が必要◇民族教育の現状を考えると財政、人材など困難は多いができる限り受け入れ、障害児と健常児を一緒に教育すべき(相互の成長にいい影響を与える)◇教員個人の主観的な判断で障害児を取り扱わず、1人1人の障害の程度に合わせて専門家と協力すべき◇個々の教員に任せっきりにするのではなく、校長以下学校全体としての対策が必要――などと指摘。民族教育全体として独自の対策を立てるためにも、専門的な研究集団やこの問題をテーマにした教育研究分科などを設置すべきだと強調した。
続く意見交換でも障害児を受け持った経験のある教員らが次々と発言。この問題が決して一部だけの特殊な問題ではないことを示していた。