同胞商工人新春講演会の経済部門講演から
日本経済が下降線を辿る中、総聯は第18回全体大会(昨年5月)などで、同胞商工人を積極的にサポートする方針を打ち出している。景気は今年も回復の見通しは暗く、各地で行われている同胞商工人新春講演会でも厳しい見方が示されている。同胞商工人はもちろん、彼らのサポートに取り組む組織にとって、深刻な状況が続きそうだ。新春講演(経済部門)の内容と同胞業者の声を紹介する。
経済の動向
なお続く構造的不安/回復への基点見出せず
日本政府の予測では、今年度の経済成長率はプラス0.5%。財政運営の緊縮型から積極型への転換、所得・住民・法人税の減税、公共事業拡大などの対策により、景気が回復に向かうとする見方だ。
しかし民間では、こうした対策の効果は一時的なものに止まるとする見方が支配的だ。主要な研究機関は一部を除き、軒並みマイナス成長を予測している。理由としては、雇用不安と所得減少による個人消費の縮小、設備投資を中心とする民間需要の縮小、米国経済の減速と円高による輸出の減少、緊急経済対策が生む効果の短命性などを挙げている。
こうした閉塞状況は、日本経済がはらむ深刻な不安要素による所が大きい。その不安要素とは、@金融不安の影響A景気および金融安定化政策の実効性への不安Bデフレ圧力による縮み循環――の3つだ。
金融不安について言えば、金融機関が抱える膨大な不良債券の処理が進めば「貸し渋り」が長引き、倒産が増加する恐れがある。そうなれば雇用不安と所得減少が派生し、企業経営と家計の不安はより深刻化するだろう。
日本政府の一連の景気・金融対策は、今年度のプラス成長実現に重点を置くあまり従来型の需要拡大策とかわりばえせず、経済危機の根本をなす構造的問題の解決は難しい。加えて、大規模な対策が財政を圧迫し、将来的に企業や家計にしわ寄せが行くことへの不安を募らせている。
またデフレ(物価下落)圧力が引き続き強まれば、実質金利が上昇し設備投資が減少→生産縮小とリストラ促進→雇用不安と所得減少→個人消費の減少→企業の収益悪化→設備投資の減少→…という具合に、経済全般が縮小に向かう悪循環にはまってしまう。
日本経済が直面している問題とは、単なる「不況の長期化」ではなく、回復への起点を見出せないでいることなのだ。中長期的な視点から経済の根本的な構造改革が実施されない限り、今後数年はこうした不安が続くと見られる。
業種的分析
飲食業/コンセプト明確化を
遊技業/カギは営業・人材力
建設業/新分野開拓など重要
1997年の数字を見ると、外食産業の市場規模は前年比2.5%増の29兆6778億円。今後も女性の社会進出と社会の高齢化が進み、外食の需要は伸びると思われる。
ただし大企業の猛烈な出店・低価格攻勢の下で、中小企業は淘汰される危険性もある。自店のコンセプトを明確にし、商品力やサービスの水準を上げて行く必要がある。「民族産業」とも言える朝鮮料理業界では、同胞業者が連係し、互いに資質を向上させていくことが求められる。
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一時は「30兆円産業」と言われたパチンコ市場も、97年には貸玉料にして前年比で10.3%減(21兆8560億円)となった。減少傾向はその後も続いていると見られ、かつてなく厳しい状況だ。
だが、需要は今もって大きい。当面は基本的な営業方法と、接客サービス、店内演出など付加的営業力の向上、それらをもたらす「人材力」の強化を図り、成長へのきっかけをつかみたい。
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建設業は96年10月以降、毎月の倒産が300件を超え、98年8月以降は400件を超えている。同年1〜9月の倒産は4203件で、前年同期比で実に25.8%増となった。
ただし将来的には、新たな展望もある。PFI(民間資本)を活用した社会資本整備の研究が活発に行われており、環境問題への社会的関心の高まりによって、ゴミ・産業廃棄物の処理施設などの整備が求められるからだ。新しい事業分野の開拓で、再生の突破口も開かれるだろう。
同胞業者の声/この不況どう乗り切る
「もうからないことは承知の上。遊んでいるよりはましだから」
神戸市内のある同胞建設業者は、こう語る。今は市内の震災復興住宅(公団)建設現場で、造園の基礎工事などを請け負っているが、この手の仕事は元々儲けが薄い。加えて、13棟の建設現場には従来の数倍の業者が入っているという。それでも、「仲間の業者には数ヵ月も仕事がないところもある。それよりは余程マシ」なのだ。
この業者はこれといった有利子負債もないため資金の回転はスムーズで、技術も幅があるために仕事は取りやすい。それでも、昨年からは仕事が切れ出して、「10月ごろは危なかった」と話す。
原因は、何と言ってもゼネコンがヒマなこと。普段なら7〜8つの現場を受け持つゼネコン直系の会社が、わずか2つの現場しか持っていない時もあったという。連鎖倒産は、今や身に迫る問題だ。
「業界再編に備えようにも、金融事情がガタガタで貸し渋りなどされるようでは話にならない。現場に立っていると、見通しなど全然見えないというのが正直なところだ」
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見通しが立たない、との言葉はどの業界からも聞こえる。代わりに、正念場となる峠は次から次へとやってくるようだ。
茨城県のある遊技業者は、「年末年始と5月の連休、お盆がかき入れ時だが、これらの時期の実入りは普段の2割増し。今年はこれを一つでも落とせば、危ないかも」と話す。
遊技業界では、日本経済がバブルから不況の入り口に立つまでの時期に、大資本の参入が続いた。その流れの中で、高収益機種、人気機種への規制が行われ、台の構成などの経営ノウハウを超えた体力勝負の時代に移った。その上、パチンコ依存症を巡る社会的事件の多発もあり、さらなる規制…。
「業界では、不況と言う最悪の時期に最悪の事態が続いた。当面は業界が一気に再生することはないだろう」と嘆く。
ただ、資金が豊富な大手は攻勢を強めており、3店舗経営というこの業者のような中小企業は、もろにその余波を受ける。
「同じ土俵では競争できない。常連を大事に、サービスを高め、工夫を凝らしながら、うちはうちの商売をするしかない。横にデパートがあっても、商売が成り立っているスーパーやコンビニもあるのだから」
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大企業の新規参入は、外食産業でも中小店に業態の見直しを迫っている。「2年前まで郊外型の大きな焼肉店の出店があった。この間は止まっていたが、今年また出て来そうだ」と、山口県のある同胞は話す。
この同胞は、焼肉店と居酒屋を経営。「創業から20年を超えた焼肉店の方は、常連に支えられているからある程度は大丈夫。ただし居酒屋は、見直しが急務だ」と言う。
一昨年の春にオープンした居酒屋は、昨年、売上が大幅に減ってしまった。取り敢えずは経費やメニューなど絞れるところは絞り、どうにか利益を捻り出せるシステムに変えねばならない。
ただし、「焼肉店にしろ居酒屋にしろ、自分のやりたいことを追求する姿勢は捨てたくない。常連さんらも、何の自己主張もない店に来てもつまらないと言ってくれる。不況と大手の攻勢の狭間で個性を捨てたら、それこそ終りだ」