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時事・解説//米国の対北経済制裁問題


 1994年10月21日に調印された朝米基本合意文は、合意文調印後3ヵ月以内に双方が貿易と投資の障壁を緩和することを明記している。共和国はこれに沿って95年1月に全面解除を実施したが、米国は4年経った現在も共和国に対する経済制裁の全面解除を実施していない。しかし最近、米国内から、政府は対北経済規制を緩和すべきだとする声が高まっている。経済規制問題についてまとめた。(基)

 

現状

関係進展占うカギ/交渉カードに利用する米国

輸出管理法など適用

 共和国は朝米基本合意文で約束したとおり95年1月に、米国商品の国内搬入制限措置と米国貿易船舶の共和国港湾入港禁止措置を解除するなど、米国に対する一切の経済障壁を撤廃した。米国も同月、通信に関する業務取り扱い許可など4項目の規制を緩和し、96年3月には人道的物資援助の制限を解除したが、撤廃には至っていない。

 朝鮮戦争が勃発した1950年6月25日に開かれた国連安全保障理事会では、共和国を「南への侵略者」と決め付け、共和国に対する援助供与を慎むという内容の決議82が採択された。米国の対北経済規制はこの決議に基づいている。

 米国は決議採択3日後の6月28日に輸出管理法(EAA)、同年12月17日には対敵性国交易法・(TWEA)などを共和国に適用し、一切の経済交流を禁止してきた。

 前者は国家安保または外交政策上の目的で特定国に対する輸出統制を行うもので、所管部署は商務省である。現在、この法の対象国は、米国が「国際テロ支援国」と規定する共和国、キューバ、イラン、リビアなどとなっている。

 後者は戦時および国家非常時に大統領が指定する国家との経済取り引き行為統制を目的にしたもので、実際の施行は海外資産統制規定(FACR)である。所管部署は財務省。

 そのほかにも対北援助を禁止する海外援助統制法・(FACA、62年8月1日適用)などが、共和国との交流を統制する法規である。

 米国は「制裁を一段と緩和するタイミングと緩和の規模は、基本的にミサイル拡散、米兵の遺骨返還などわれわれの関心事項について、北朝鮮が建設的に取り組む意思があるかどうかにかかっている」(ロード国務次官補の講演、96年2月8日)と前提条件を示した。これは制裁緩和問題を対北交渉・圧力のカードに利用しようとするものだ。しかしこの問題は朝米基本合意文に沿って解決されるべきである。

 

ベトナム方式を採用

 米国はこれまで、朝米会談の場を通じて規制緩和を示唆してきた。

 例えば、97年3月、ワシントンとニューヨークで行われた朝米会談で米国は、「対北経済制裁の全面解除問題に留意しながら、当面して米国の銀行にある共和国資産(米財務省によると、約1400万ドル)の凍結解除、米民間機の共和国領空通過許可と関連した措置を講じる」と通報してきた。同年12月には、米財務省外国資産監理局が共和国の在米資産を管理する法人や機関に対し、今年3月9日までに管理資産内容を米政府に提出するよう通達した。

 ちなみに在米資産解除に関する問題は、その後、対北債権および凍結財産規模把握→共和国側との清算交渉進行→資産凍結問題の完全な解決、という手順が踏まれると予想される。

 米国とベトナムの場合、米国によるベトナムへの凍結資産解除が、国交正常化への1つのシグナルとなった。米国は94年2月、ベトナムへの経済制裁全面解除を発表、95年1月には凍結資産解除のための清算協定を締結し、その6ヵ月後の7月に国交を正常化している。

 こうして見ると、経済制裁の全面解除は実質的には敵視政策の転換となり、今後の朝米関係進展を占う重要なカギとなろう。

 

米国世論

外交評議会ロードマップ示す/政府に解除求める報告書も

 米国内では最近、政府に向け対北経済規制緩和を求める報告書が相次ぎ発表されている。

 米政府や議会に影響力のある米経済戦略研究所が6月17日に発表した政策報告書は、朝米基本合意文に基づき朝鮮戦争以来続く共和国に対する経済制裁の解除を推し進め、貿易と投資を促進させることを政府に強く促した。

 報告書作成には、朝鮮問題に詳しいセリグ・ハリソン(ウッドロー・ウィルソン国際学者センター研究員)、クライド・プレストウィッツJr(経済戦略研究所所長)の両氏を共同議長に、ローレンス・クラークソン(ボーイング社副社長)、ブルース・カミングス(シカゴ大学歴史学教授)など政財界、学界、軍関係など30余人の各界著名人士が参加した。

 同研究所は八九年、ワシントンに設立された民間の政策研究機関だが、懸案の政策建議書を作成し、政府、議会、言論・学界などへの影響力を行使してきた。

 一方、米政府の内外政策立案に大きな影響力を持つ民間のシンクタンク、米・外交評議会も今年に入り、「朝鮮半島の変化に向けて」と題するレポートをまとめて5月に発表し、経済制裁解除に向けてのロードマップを提示した。これは、ケース・バイ・ケースという前提条件を付けてはいるものの、政府、民間を問わずこうしたロードマップを示したのは米国内では初めて。

 この問題については、消極的な意見が多数を占める議会の説得が政府の課題とされているだけに、その議会の動向にも影響力を与えることになる。

 ロードマップは、米国による制裁の大部分は敵性国貿易法が及ぶもの、テロリズムと移民に関する法律が及ぶもの、非拡散法に関連する輸出統制が及ぶものの3つに分けられると指摘。規制緩和の内容として、共和国が食糧を確保するための鉱物取引、農業援助、鉱物輸出を拡大させるための採掘機械に関する適性国家貿易法のケース・バイ・ケースによる例外措置の追加、南朝鮮企業との合弁事業への特恵措置を含む米国からの個人セクターによる対北投資に関する同法のケース・バイ・ケースによる例外措置、世界銀行経済開発研究所や米国の大学などでの共和国政府高官の育成を含むIMF(国際通貨基金)、世界銀行、アジア開発銀行への共和国の加入支援――を上げている。

 一方、カーター元大統領も、「経済制裁の緩和が必要」であり「(米国が)寛大であることによって状況を改善できる」(日本経済新聞97年12月5日付)と指摘している。

 

Q&A/進めばどうなる?

資産凍結解除後ドル決済へ/投資、貿易で相乗効果期待

  米国はハワイで6、7の両日、南朝鮮と対北経済規制緩和問題を協議し、中旬にはワシントンで共和国と協議を行う予定だが、今後講じられると思われる規制緩和措置の内容は。

  それぞれの協議が終了してみないとはっきりしたことは分からないが、共和国の在米資産凍結解除が対象になるものと見られる。資産規模は1400万ドル程度で、清算手続きを終えれば、共和国に戻る残余金はそれほど多くはないと予想される。しかし資産凍結解除はそれ以上に、朝米関係正常化をいっそう進めるという象徴的な意味を含んでいる。

 というのは資産凍結解除後、@対北取引時に米国銀行システムの利用許可 A米企業の海外法人の対北投資許可 Bすでに輸入が許可されているマグネサイトのほか戦略的鉱物の輸入許可 C対北輸出品目の拡大――などが予想されるからだ。

  なぜ、そう言えるのか。

  共和国外交部スポークスマンは6月25日の談話で、規制解除問題に触れ米国は「凍結された共和国の財産の解除、米国銀行を通じたドル決済の許可すら与えていない」と指摘している。

 これは、この問題が、朝米間で差し迫ったものとして提議されていることを示唆するものだ。

 共和国資産凍結が解除され、米国銀行を通じたドル決済が行われるようになると、米企業による共和国への投資、朝米間の貿易における通貨の流通が実現する。

 これまで大手自動車メーカーのゼネラル・モータース(GM)、長距離電話会社のMCI、USワシントン銀行、総合開発会社のスタントン・グループなど米企業11社が95年2月、米財務省から対北経済活動の正式な許可を受けて羅津―先鋒経済貿易地帯を視察し、投資への意欲を示している。中でもスタントン・グループは96年9月、同地帯内にある勝利化学精油会社と合弁契約を締結しており、現在、米政府の承認待ちの状態だ。

 貿易でも、米鉱物協会(NMA)が昨年8月までに、咸鏡南道端川地区と剣徳地区の亜鉛、鉛、マグネサイトなどの開発について具体的に合意。5億ドル規模の投資を推進する予定だ。

 しかしこうした貿易、投資を実施するうえで、ドル決済ができなければ双方に支障が生じることは言うまでもない。

 これらが実現すれば、朝米間の経済を発展させるうえで相乗効果が期待される。朝米経済協力促進共同委の発足(7月23日発朝鮮中央通信報道)も、こうした双方間の投資と貿易を奨励し促進させることを踏まえたものと言える。

  95年1月、米国は対北経済規制の一部緩和で、マグネサイトの輸入許可を下したが。

  その後、米鉱物会社ミネラルテクノロジー社が政府の承認を受けて同年、製鉄工場の耐火材原料として使われる共和国産マグネサイトを大量に輸入した。

 決済方法は定かではないが、ドル決済できない現状から、おそらくバーター貿易と思われる。

 ちなみに昨年8月、共和国屈指のマグネシアクリンカー生産拠点である端川マグネシア総合工場に高質マグネシアクリンカー工場が新設された。共和国には世界全埋蔵量の56%に当たる32億トンのマグネサイトが埋蔵されている。

 いずれにせよ、世界の金融が米ドルを中心に動いている現状において、在米資産凍結解除後の米国銀行システムの利用実現は、共和国が対外貿易を拡大する契機となろう。

 

 日時        関連根拠
50・6・28  輸出管理法
50・12・17  敵性国交易法
51・9・1  貿易協定延長法
55・8・26  国際武器取引規制
62・8・1  対外援助統制法
75・1・3  交易法
75・5・16  輸出管理法
86・10・5  輸出入銀行法
88・1・20  輸出管理法

88・4・4  国際武器取引改正規定
92・3・6  輸出管理法
(6・23に
追加)                    


89・1・3  海外資産統制規定一部改正

89・2・2  同上
89・4・24  輸出管理規定一部改正
95・1・20  行政命令



          措置内容
輸出禁止
在米共和国資産凍結、通商・金融取引禁止
最恵国待遇(MFN)禁止
軍需物資などの輸出入禁止
対外援助の禁止
一般特恵関税(GSP)供与の禁止
包括的禁輸措置
米輸出入銀行の信用貸付提供の禁止
テロ支援国家に指定(貿易、GSP供与、軍需統制品目上の物品販売・対外援助・信用貸付提供禁止)
軍需物資などの販売と輸出入禁止
ミサイル・電子・宇宙・航空・軍用機など軍需統制品目の輸出入および2年間、米政府との契約禁止                  



スポーツ・学術・文化など非商業用分野に限り米旅行社の旅行斡旋許可
出版物の輸出入およびそのための金融取引許可
食料・医薬品・医療器材など人道的物資の輸出許可
@電話、通信の連結とそれに伴う取引、個人の旅行、それに伴うクレジットカード使用、旅行関連の取引、マスコミの支局開設の許可A米国を起点、または最終点としない金融取引の米国銀行の使用許可。共和国政府の資産ではない凍結資産の解除B米企業で耐火物資として使われるマグネサイトの輸入C基本合意文履行のための措置(連絡事務所設置・運営、軽水炉建設に関する取引の許可)
@人道的支援のための国連および国際赤十字への基金供与と関連したすべての取引許可A米管轄下の個人による第三国から共和国への人間の基本的必需品供与に関わるすべての取引許可




96・4・7  海外資産統制規定一部改正