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本と友達になる夏休み/西東京第2の先生が薦める日本語の本


 1ヵ月以上にわたる夏休みは、子供たちが読書に親しむ絶好のチャンスだ。朝鮮語の本は各学校で課題図書が配布されるが、日本語の本はどう選べばよいだろうと、悩んでいるアボジ、オモニもいるだろう。図書室を効果的に活用するなど、子供たちの読書指導に力を入れている西東京朝鮮第2初中級学校の図書委員の先生たちに、お薦めの本をあげてもらった。(東)

 

初級部低学年/金明美先生

「100万回生きたねこ」
「にじいろのさかな」
「しろいうさぎとくろいうさぎ」

 初級部低学年図書委員の金明美先生は、担任している3年生の生徒たちと一緒に3冊の絵本を選んでくれた。

 「100万回生きたねこ」は、自分のことしか愛せなかったトラ猫の話。

 初めて他者を愛することを知るが、その白猫は死んでしまう。「人間の心理の深いところを突いている。猫の目から見た飼い主評には、人間として振り返るべきところもあったり…」と金先生。生き生きとしたタッチの絵もユーモラスだ。

 「にじいろのさかな」(マーカス・フィスター作、谷川俊太郎訳、講談社)は人に分け与える事の大切さを描いた話で、きらきらと光るうろこが目を引くカラフルな絵が美しい。

 「しろいうさぎとくろいうさぎ」(ガース・ウィリアムズ文、まつおかきょうこ訳、福音館書店)は、うさぎ同士がずっと一緒にいたいねと結婚する微笑ましいストーリーだが、そこに至るまで黒いうさぎは考え込み続ける。一緒に楽しく遊んでいるのに悲しいのはなぜだろうと…。感情の動きを表情で伝える繊細な絵も効果的だ。

 どれも、創造力をかきたてる絵と内容で、大人も楽める。

 「読み聞かせもいいが、子ども自身が声に出して読むことも読解力をつけるためには効果的。『お 
話聞かせて』とオモニ、アボジから頼んでみては」

 

初級部高学年/呉善姫先生

「トガリ山のぼうけん」@〜F
「車のいろは空のいろ」

 初級部高学年図書委員の呉善姫先生のお薦めは、生徒が持ってきたという「トガリ山のぼうけん」。トガリネズミのトガリィじいさんが3人の孫に、若い頃の自分の冒険話を聞かせる形で話が進むので、「読み聞かせにも向いている」(呉先生)。写実的で可愛い挿絵もたくさん織り込まれており、「子供たちは、自分もネズミのように小さくなった気持ちで創造力を膨らませ、冒険の世界に入り込める」と呉先生。色々な動物や虫、植物が登場するので、自然への親しみも増すだろう。

 「車のいろは空のいろ」(あまんきみこ作、北田卓史絵、ポプラ社)の主人公はタクシーの運転手。様々な出会いにまつわるエピソードが8つの話になって収められている。読み終わって心が和むような、少し不思議なファンタジーだ。そのうちの1つ、「すずかけ通り3丁目」は戦争の悲惨さも教えてくれる内容。「白い帽子」は、初級部4年の日本語教科書にも収録されている。

 ほかにも「エミールと探偵たち」(エーリヒ・ケストナー作、小松太郎訳、岩波少年文庫)、「クローディアの秘密」(E・L・カニグズバーグ作、松永ふみ子訳、岩波少年文庫)など、勧めたい本がたくさんあるという呉先生。

 「ウリハッキョの日本語の教科書には、内外の名作がたくさん載っている。同じ作者の本を買ってあげるのも、子供に興味を持たせるいい方法では」

 

中級部/李政愛先生

「アンネの日記(完全版)」

 中級部図書委員と図書室の責任者を兼ねている李政愛先生が薦めるのは、「アンネの日記(完全版)」。文庫本で出ており、「字も小さく分量も多い。中学生には多少難しいかもしれないが、本をよく読む子には、この夏休みに是非チャレンジしてほしい」と李先生は力説する。

 第2次世界大戦末期、ナチスドイツによる民族的迫害を避けて隠れ家生活をした末、ナチスに連行され強制収容所で生涯を終えたユダヤ人少女、アンネが残した13歳から15歳までの間の日記――世界中で出版されベストセラーとなってきた――を知らない人はいないだろう。この「完全版」は1947年の初出版時に削除されていた部分を加え、94年に新たに出版されたもの。1人の人間、思春期の少女としてのアンネ像がより膨らんでいる。

 ユダヤ問題、つまり民族差別の問題を考えるきっかけとしてはもちろん、「学校生活、異性への思い、父母との葛藤など、多感な思春期の女の子の心理が生き生きとよく描かれている。中学生は共感しながら読めるだろう。深い読後感のある大変いい本だ」と李先生。

 「読書は体験。どんな時期にどんな本と出会ったかが大切だが、忘れられない本との出会いを無理に作ることはできない。子供たちが自分で手に取るきっかけができるように、本と接するチャンスを増やす努力をしている。感想文も強制はよくない。そのせいで本嫌いになる子も少なくない。わが校では、心に残った一文を抜き出して書き写してくるようにということをよくやるが、新鮮な発見の連続で驚きます」

 

金龍成先生

「ロビンソン・クルーソー」

 同校に赴任して児童書をたくさん読むようになったという体育担当の金龍成先生は「オーソドックスですが…」と言いながら、初級部高学年〜中級部の男子向けに「ロビンソン・クルーソー」(デニエル・デフォー作)を薦めてくれた。

 「今の子供たちは物質的に豊かで満たされている。何もない無人島でサバイバル生活をしながら精神的に成長していくストーリーから、得るものが多いのでは」と金先生は語る。

 同校図書室にあるのは福音館書店の古典童話シリーズだが、岩波少年文庫をはじめ各社から多数出版されている。

 

金海龍先生

「ゲド戦記」

 理科担当の金海龍先生が中級部男子向けに推薦するのは、「20世紀後半を代表する成長小説」と言われるファンタジー、「ゲド戦記」(アーシュラ・K・ル=グウィン作、清水真砂子訳、全4巻、岩波書店)。

 苦しい修行の末に魔法使いとなり、様々な敵とたたかいながら精神的に成長していく主人公、ゲドの物語だ。中心人物はもちろんゲドだが、ゲドに向き合うもう一人が必ず対になっていて、物語は対話的に、絶えず向き合いながら進んでいく。

 逆転また逆転が続く展開と、スケールの大きいストーリー。一つ一つのエピソード、台詞も奥が深く、大人が読んでもおもしろいだろう。