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10周年を迎えた「在日朝鮮人・人権セミナー」/前田朗事務局長に聞く


 「在日朝鮮人・人権セミナー」は、日本政府の国際人権規約批准10周年を迎えた89年、在日朝鮮人が直面している人権侵害の実態を広く市民に訴え、日本人と在日朝鮮人の草の根の連帯を強化していこうと弁護士、学者、文化人らが呼びかけ人となって始まったもの。5月に10年目を迎えた「人権セミナー」の前田朗事務局長(東京造形大学助教授)に、話を聞いた。(文責編集部)

 

各界人士ら呼びかけ

 88年12月、世界人権宣言40周年に際し、現在「人権セミナー」の実行委員長である床井茂弁護士が中心となって、在日朝鮮人の人権に関する集会を開いたことがそもそものきっかけとなった。私はその集会には関わっていなかったが、89年に入り、せっかく一度集まったのだからこのメンバーで何か継続的にやっていこうとなった時に誘われた。

 著名な弁護士、学者、文化人ら11人が呼びかけ人となり、当初は「在日朝鮮人の人権キャンペーン」と名づけ、@連続講座「在日朝鮮人・人権セミナー」 A出版 Bビデオ制作――の3つを柱に、東京と大阪にそれぞれ事務局を設けて活動を始めた。

 連続講座の第1回は5月10日、東京・御茶の水の総評会館で行われたが、初年度は毎月、セミナーを開き、そのテーマに沿って制作したビデオを必ず上映した。

 活動の柱の2つ目に掲げた出版については、89年の活動をもとに90年末、「いま在日朝鮮人の人権は」(日本評論社)という本にまとめることができた。

 90年からは連続講座の名称をそのまま取って「在日朝鮮人・人権セミナー」とし、2〜4ヵ月に一度くらいのペースでセミナーを開いてきた。それ以来、床井さんが実行委員長、で私が事務局長を務めている。
 この間、印象に残っている活動としては91年5月、東京朝高が警察による不当な強制捜索をされた時、すぐにビデオを制作して、事件の1週間後に緊急集会を開いて上映したこと。素早く対応でき、広く関心を集めるうえでよかったと思っている。

 

12月に記念集会

 93年からは、国連での活動を新たな柱としている。国連の各条約委員会で日本の審査が行われる場合、在日朝鮮人問題に関するカウンターレポート(当時国が提出する報告書以外に、委員会が参考にするためNGOなどが提出できるレポート)を作成してきた。

 まず同年、自由権規約委員会にカウンターレポートを作成、提出した。昨年には子どもの権利委員会についても作成し、日本のNGOのレポートに在日朝鮮人問題が入るように活動した。また昨年、日本が人種差別撤廃条約を批准した時、集会を開いたが、今後、日本が報告書を提出した際には、カウンターレポートを作成しようと思っている。この委員会については傍聴もし、雑誌に報告も掲載した。

 また93年8月以来、人権委員会に代表を送って発言を続けており、94年の春から夏にかけてチマ・チョゴリ事件が起きた時には、人権セミナーが中心になって調査委員会を結成し、同年8月と95年8月の2回、この問題を訴えた。

 今後も、定期的に学習会や集会を開くことと、国連での活動を軸にしていきたいと思っている。また今年12月に世界人権宣言50周年を迎えるので、民族教育をテーマに記念集会を開き、来年にでもこれまでの資料などをまとめて本を出版したいと考えている。

 10年間を振り返ると、この間、すでに在日朝鮮人への差別問題は一定の解決をみたと評価する人も出てくるようになった。少しずつ改善されているのは事実で、法的な部分ではそう言える部分もあるかもしれないが、見えにくくなっただけで、教育問題などを見るかぎりは厳然たる差別は残っており、社会的な差別については言うまでもない。これはすべて、植民地時代をきちんと清算していないことに起因している。

 「人権セミナー」が追求してきたのは、国際的な人権の水準で物を考え、それをアピールすることだ。10年間の活動の間に方法論の獲得と、社会に一定のインパクトを与えるうえでの前進はあったと思っている。