外国人学校助成金差別――その影響は今/神戸から
日本弁護士連合会(日弁連)はさる2月、朝鮮学校をはじめ在日外国人学校に対する大学の受験資格や助成面での制度的差別の是正を、日本政府に勧告。日本学校と外国人学校の間に資格や助成面で差異を設け、在日外国人が民族文化を保持することを妨げて日本国の教育を押しつけることは「重大な人権侵害」だと指摘した。在日同胞は半世紀以上にわたり、この人権侵害とたたかって来たが、最近では日本に住む他の国の人々からも、現状の是正を求める声が高まってきた。7つの外国人学校団体でつくる「兵庫県外国人学校協議会」(会長=林同春・神戸華僑総会会長)に加盟し、行政に助成金増額などを求めるうえで共同歩調をとっている神戸市の東神戸朝鮮初中級学校、マリスト国際学校、神戸中華同文学校の3校の現状を通して、助成差別の影響を見た。(賢)
東神戸朝鮮初中級学校/大きすぎる父母の負担
3年前の阪神・淡路大震災では、県内にある3つの外国人学校が校舎の建て替えを余儀なくされた。
東神戸朝鮮初中級学校(神戸市中央区)も、そのうちの一つだ。1年前に竣工した新校舎の建設費は、約11億円。日本政府から出た補助は4割に満たず、あとは父母や地域同胞の寄付、全国にいる同胞や日本市民からの義援金に頼った。
神戸市内の外国人学校が、県と市から受けている助成金は、義務教育段階では日本の私立学校の5分の1に過ぎない。普段から運営費の大半を捻出してきた父母や地域同胞にとって、建設費の負担は限界を超えるものと言える。
実際、今でも月々1万円、2万円と分割して建設資金を払い続けている人もおり、「同胞企業も不景気の影響が大きく寄付を集めようにももらう相手がいない」(金校長)のが現状だ。
マリスト国際学校/震災影響し入学断念の例
須磨区にあるマリスト国際学校も震災後、校舎を13億円をかけて建て替えた。日本政府からの補助は5億円で、あとの大半は借入で賄った。目下、返済の目途は立っていないという。
アジアや欧米の複数の国の子供たちがともに学ぶ同校は、朝鮮学校のように特定のコミュニティーに支えられているわけではなく、主な収入は授業料だ。父母の負担は比較的重くならざるを得ない。以前なら、所得水準に応じた柔軟な対応に努めて来たというが、校舎建て替えによる経営圧迫でそれも難しくなった。
事務長の大迫嘉昭さんは、「入学を断念していくケースが、実際にある。不本意ながら、外国人の子供に教育の機会を公平に与えられない理不尽な現実にまみれてしまっている」と語り、表情を曇らせた。
神戸中華同文学校/文化的断絶を憂慮
華僑社会にある自力更生の精神と固い結束に支えられている神戸中華同文学校(中央区)の運営形態は、朝鮮学校と類似のものだ。
華僑社会では今、今後も日本で民族性を保っていくために、新たに本国から渡ってくるいわゆる新華僑を旧来の華僑社会に融和させる必要性が論議されているという。当然、学校教育の段階からの融和も重要になってくるが、同校の文啓東校長は、「それにはハードルがある」と話す。
授業料は極力低く抑えているが、それでも渡日して日が浅く、経済力の弱い人たちには大きな負担だ。新華僑の人々は現在のところ、子供は公立の日本学校に送るのが普通だという。
またその場合、「新旧華僑の融和が滞るだけでなく、日本語の不得手な親と、次第に中国語を忘れる子供との間で、文化的な断絶が起こりかねない」(文校長)と憂慮する。
兵庫県外国人学校協議会/「国際化」は空念仏
震災の年の7月に発足した「兵庫県外国人学校協議会」は、行政に助成金の増額を求める一方、日本学校も交えた独自の交流イベント開催や、各種の催しへの積極的な参加を通し、地域の国際化への貢献にも力を入れて来た。今年2月にはこうした活動に対し、県知事から表彰も受けた。
協議会の林同春会長は「とくに国際都市を標ぼうする神戸にとって、外国人が暮らしやすい環境づくりは重要。外国人学校はその象徴とも言えるだけに、協議会の活動は日本人の歓迎を受けている」と話す。
だが一方で制度的な助成が十分なされず、被災した外国人学校などで父母らの負担が限界を越えている現実は、日本の国際化の限界を見せているに等しい。
こうした現状はまた、日弁連が国際条約違反だと判断したとおり、不断に進歩を続ける国際社会の人権思想とかい離したものだ。
マリスト国際学校の大迫事務長は「日本の『国際化』はイメージ先行の空念仏だ。外国人にとって生きにくい鎖国の現実を取り繕っているに過ぎない」と指摘。「日本人として、現状の打開をライフワークにしたい」と言葉に力を込めた。
外国人学校への差別は、在日外国人社会、日本社会、国際社会のいずれの視点から見ても、放置できない問題なのだ。