朝鮮学校差別の是正を/日弁連調査報告書(要旨)B
権利と義務/憲法・国際条約上不可侵
日本国憲法が第26条において定める教育を受ける権利は、第14条「法の下の平等、合理的理由のない差別の禁止」、第13条「個人の尊厳」の原則などによって、外国人に対しても保障されている。
日本国憲法の教育に関する権利義務は、この憲法の基本原則の範囲内のものであるから、国際協調主義として他国の主権の尊厳(前文)と個人の尊厳などの基本原則を充足し、思想良心の自由、学問の自由その他の基本的人権と調和する内容でなければならない。
国家の尊厳と主権において、各国にはその文化を維持発展させる教育を行う固有の権利と義務があり、その対象はすべての国民であり、居住地がその国の内外であることを問わない。
個人の尊厳を維持し幸福を追求するには、知的文化的に個人としての尊厳が保たれ、経済的社会的に不可侵であることを要する。個人の知的活動は、思想良心その他すべてにおいてそれぞれの民族および国民としての文化を維持継承し発展させるところに生ずる。
すべての在日外国人は自己の民族ないし自国の文化を維持継承し発展させる権利として、自己の文化による教育を行い、またこれを受ける権利を有する。日本国はこれを侵してはならず、保障しなければならない。
「子どもの権利条約」第28条、第29条、第29条aおよびc、第5条の各条項によると、すべての在日外国人の子どもは自己の民族ないし自国の文化による教育を受ける権利を保障されており、そうした教育を受けさせようとする親ないし法定保護者の選択が尊重される権利もまた保障されている。
「市民的および政治的権利に関する国際規約」(国際人権「自由権」規約)は批准国に対し、種族・宗教・言語的少数民族の存在する国において、当該少数民族に所属する人々が自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰・実践し、自己の言語を使用する権利を保障させている(第27条)。同条は通常、多民族国家において少数民族を文化的に尊厳を維持しこれに対する侵害から守る効果を有するが、とくに国民としての少数民族に限定していない。
国連総会が決議した、「在住する国の国民でない個人に関する人権宣言」(外国人の人権宣言)は、加盟国が国連憲章、世界人権宣言、人権規約の趣旨に則り(前文)、全ての外国人が自己の言語、文化、および伝統を保持する権利を保障すべきことを宣言している(第5条f)。
固有の文化の保持は維持・継承・発展を包含するものであり、教育および学問は不可分である。
「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する条約」(人種差別撤廃条約)は第2条第2項において「締約国は…特定の人種の集団またはこれに属する個人に対し人権および基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団または個人の適切な発展および保護を確定するための特別かつ具体的な措置を取る…」ことを義務付けている。社会的、経済的、文化的発展と保護には各人種ないし民族の固有の文化を維持発展させる教育は不可欠である。
上記引用部分に続く文言として、具体的措置がその目的が達成された後、いわば逆不平等とならないための配慮をしていることを考慮すると、その具体的な措置は明らかに人種的差別の対象とされる人ないし集団に対しては、一般的な人々以上の厚い措置をも要求しているものと解される。