迫害の深層――衛星打ち上げがなぜ(6)/前田哲男 軍事評論家
短絡的な日本の外交/思い込みと先送りの心理
共和国の人工衛星打ち上げに対して日本政府が示した態度は常軌を逸したものだった。特に情勢の変化に対して冷静、冷徹であるべき外交プロの外務省が「制裁措置」を講じるなど我を忘れて行動した。
それほど予想外で衝撃的な出来事であったというのは言い訳にすぎない。
共和国に対する自らの誤った先入観が、情勢の客観的な分析を妨げたと総括すべきだろう。
ひとつは共和国が近々「ミサイル発射実験」を行うとの情報を得たと思い込んだこと。日本列島を越える飛行物体を見て「ICBM級の弾頭ミサイル」と短絡的に判断してしまった。
もう一つは共和国が日本への敵対意識を持ち、それを実行に移す可能性があると認識していることだ。
日本では民族差別的な感情に加えて、このような世論が歴史的に形成されてきた。例えば朝鮮戦争当時、朝鮮を攻撃する米軍の部隊、兵器は日本から海を渡って行った。日米安保体制下で今もこのような状況は変わらない。
考えてみれば報復があってもおかしくないわけで、そのような潜在的な恐怖心が相手国の実体を見る目を曇らせてしまっている。
冷戦崩壊後の「北朝鮮脅威論」というのは基本的に米国の戦略で、日本はこれに追随しているが、最近のガイドラインに関する動きなどを見ると変化がある。
後ろからついていくだけでなく、現象面では主役的なものも引き受けると言っている。
見過ごしてならないのは、朝鮮に対する悪感情を利用した「脅威論」によって日本の進路が大きく変わろうとする時、反対の声が無いことだ。
今回の問題で衆参両院が全会一致で「決議」を行ったが、こうなると政府や外務省だけの問題ではなくなる。
政府が言うことと違う選択肢を国民の前に提示する政治の機能が衰弱している。
各地で起こったチマチョゴリ事件などが示すように、誤った外交が行われると、それが国内に飛び火するような社会構図、風潮が今の日本にはある。
日朝関係が改善の方向に進まなければならない。
衛星打ち上げと関連して政府は「事前通告」をうんぬんしたが、そうであるならば、まずは両国がそういった関係になっていなければならない。
しかし現実には日朝間にそのような関係は築かれていない。この課題を引き受けるべきは、歴史的経緯から言っても相手側ではなく日本側なのだ。
外務省の役人は過去の植民地支配などの問題になるべく関わりたくないと思っている。
問題があまりにも大きいので、当面は関係のない問題を引っぱり出して相手側に注文を付けたりする。しかし、そういう先送りの心理が外交を支配している限り出口はない。
関係改善のためのアプローチは様々であろう。
日朝政府間の交渉再開が何よりも求められるが、一方では、自治体レベルや民間による交流なども活発に行うべきだ。
少なくとも、そこに住む人との継続的な接触、情報交換があれば他国に対するマイナスイメ−ジというものは広がったり、長続きするものではないからだ。(志、文責編集部)
まえだ・てつお 1938年生まれ。長崎放送記者、フリージャーナリストを経て、現在、東京国際大学教授。