迫害の深層――衛星打ち上げがなぜ(4)/広瀬理夫 弁護士
防衛力強化の口実に/問われる日本のマスコミの姿勢
共和国の人工衛星打ち上げを口実とした反共和国、反総聯キャンペーンが、9月以降大々的に行われた中、全国各地で朝鮮人生徒に対する暴言、暴行事件が頻繁におき、10月15日には総聯千葉支部副委員長が虐殺されたうえ、総聯会館が放火されるという残虐極まりない事件が起きた。
20年間の弁護士経験を踏まえたうえで推測しても、今回の事件が単純な動機による刑事事件ではなく、ある背景を持った事件だとの疑惑を抱いている。
最近日本政府は、最終見解として共和国の人工衛星を「ミサイル」と断定した。政府がかたくなに「ミサイル説」に固執する目的はどこにあるのか。
第1点にあげられるのは、「北の脅威」を装い「新しい日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)制定のための世論操作である。
自自連立が一致している基本政策の柱が安全保障問題だ。汚職問題を発端に防衛庁バッシングが起こっている中で、このままでは防衛問題が争点になった時、必ずしも充分な追い風にならない。
むしろ逆風になってしまう。そういう点を考慮して、「ミサイル説」を格好の材料として世論操作に躍起になっているのだと思う。
第2点は、日本経済の不況と政治不信に対する国民の不満のはけ口を危機感を煽ることで共和国に向けさせることである。
不満の矛先が政治家本人に向けられてはたまったものではないからだ。
政府の対応もさることながら、一連の事態に関して憂慮すべき点は、日本のマスコミが政府の発信する不確実な情報を検証もせずタレ流ししていることである。
取材力を駆使して正しい情報を流す能力、気力がなくなっているように見える。
今回の騒ぎにしても、「ミサイル」という言葉だけが先走って真実が隠されてしまった。
政府の世論操作にうまく利用された形となった。
マスコミ各社は、独自の情報を持って真実を伝えなければいけないのではないか。
こうした背景から今、日本社会での防衛論議は、明確な議論に基づいたものではなくムード的に作り出されている。これは非常に恐ろしい事態だ。
今回の事態と関連し日本人の差別意識もまた、露になった。
事あるごとに在日外国人、とりわけ在日朝鮮人に対する偏見と差別意識は、戦後50余年経った今でも、真の意味でもなされていない人権教育の欠如から生まれたものだ。
一部の人から、「差別は放っておけば自然になくなる。刺激するからまた起こるんだ」という声も上がっているが、人々の意識を変えなければ根付いた差別意識を決してなくすことはできない。
千葉事件の真相究明と在日朝鮮人に対する偏見と差別をなくし、地域レベルでの日朝友好親善の機運を高め、互いの文化に敬意を払う共生社会を作るため、さる10月23日に「千葉朝鮮総聯役員虐殺・放火事件調査委員会」を発足させた。
在日朝鮮人が日本の地に居住する歴史的経緯を理解し、在日外国人に対して差別のない開かれた平等な社会を構築するために、1人でも多くの市民と共に、1歩1歩着実で根気強い活動をしていきたい。(千、文責編集部)
ひろせ よしお 1949年生まれ。中央大学法学部卒。日弁連人権擁護委員会委員、千葉県弁護士会人権擁護委員会委員。総武法律事務所所属。