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世界人権宣言50周年/知っておきたい国連の人権活動と在日同胞


 「すべての人民とすべての国が達成すべき共通の基準」として国連が世界人権宣言を採択したのは1948年12月10日。以来50年、国連は同宣言の内容を条約化した国際人権規約をはじめ各分野別の国際人権条約を制定し、人権委員会をはじめとした人権擁護機関を通じて、世界的な人権状況の改善に努めてきた。日本政府は51年、内外人の平等と一切の差別の撤廃をうたった世界人権宣言の目的実現のために努力する意思を表明し、79年には国際人権規約を批准したが、これらの規定に反して、在日朝鮮人に対する差別は依然として解消されていない。そのため総聯は、こうした日本の現状を国連の各人権擁護機関で積極的に訴え、国際的な支持を集めてきた。

 

世界人権宣言/一切の差別を禁止

 国連第3回総会は1948年12月10日、すべての人民とすべての国が達成すべき人権の共通基準として世界人権宣言を採択した。

 世界人権宣言は第2次大戦中、ナチのユダヤ人虐殺や日本帝国主義による朝鮮人虐待など、悲惨な人権侵害の横行に対する深い反省に立って作成されたもの。全30条からなり、一切の差別や拷問・虐待の禁止、思想、宗教、表現、集会・結社の自由などの基本的人権の概念を明確化した同宣言は、それ以降に制定された各国憲法などにも多くの影響を与えている。

 さらに世界人権宣言に掲げられた諸権利は「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約、社会権規約)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約、自由権規約)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第1選択議定書」として国際条約化された。国連第21回総会は66年12月16日、これら(総称して国際人権規約と呼ぶ)を採択し、世界各国がすべての人々の基本的人権を保障するよう求めた(発効は76年)。

 日本は51年に調印したサンフランシスコ講和条約の前文で、世界人権宣言の目的実現のために努力する意思を宣言。国際人権規約(A、B)も79年に批准している。

 総聯と在日同胞は自らの権利を守り、その保障、拡大を求めるたたかいを繰り広げてきたが、世界人権宣言にうたわれた内容は、その運動の推進力の一つとして機能してきた。

<世界人権宣言から>

 すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である。(第1条より)

 すべての人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位またはこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。(第2条より)

 すべての人は、法律の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。(第7条より)

 

主な人権条約/同胞の権利を保障

自由権規約

 「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、国際人権B規約)」(66年採択、76年発効)の締約国は9月末現在で140ヵ国。日本は79年に批准した。全53条。

 規定する内容は多岐にわたっているが、民族、人種、国籍などにより一切の差別が禁止されているのは言うまでもない。

 とくに第27条(少数民族の保護)は、「少数民族に所属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、…自己の言語を使用する権利を否定されない」としている。ここで言う少数民族は、とくにその国の国民としての少数民族に限定されたものではなく、当然、在日同胞にも当てはまる。

 

人種差別撤廃条約

 人種差別撤廃条約(「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」、65年採択、69年発効)の締約国は9月末現在で151ヵ国。日本は95年に批准している。全25条。

 同条約において人種差別とは、「人種、皮膚の色、門地または民族もしくは種族的出身に基づくあらゆる区別、除外、制約または優先であって……人権および基本的人権を認識し、享有しまたは行使することを妨げまたは害する目的または効果を有するもの」と定義される(第1条)。締約国はこうした差別を撤廃するため、あらゆる施策を「遅滞なく」追求しなくてはならない(2条)。

 つまり同条約は、国家による人種差別などを禁止しているのはもちろん、社会における差別をなくすことも国家の責務としている。

 

子どもの権利条約

 子どもの権利条約(89年採択、90年発効)の締約国は9月末現在で191ヵ国。日本は94年4月に批准した。全54条。

 18歳未満のすべての者が対象(第1条)で、第2条(差別の禁止)は、締約国の管轄内にあるすべての子どもたちに言葉や性別、肌の色、民族的・社会的出身、宗教、思想などあらゆる理由による差別なく、条約に掲げられている権利を尊重、かつ確保しなくてはならないと規定している。

 また第30条(少数者・先住民の子どもの権利)は、マイノリティ(少数者、日本における朝鮮人も含まれる)の子どもたちが自己の文化を享受し、自己の言語を使用する権利を保障している。さらに第8条(アイデンティティの保全)では、子どもがアイデンティティを保全する権利を保障し、それが失われた場合には回復させる措置を取るよう締約国に求めている。

 

チェックシステム/各国の人権侵害を監視

人権委員会と人権小委員会

 国連は、世界人権宣言の各人権条約が形作る国際人権基準が、各国内できちんと実現されているかどうかをチェックするためのシステムを持つ。

 人権委員会は、国連経済社会理事会により46年に設置された。同理事会の選出する53ヵ国の代表によって構成され、@人権基準設定 A人権の促進 B人権の保護――の3つの機能を持つ。当初は重要な人権条約類の起草など @の活動が多かったが、67年以降、活動の比重は Aと Bに移っている。通報に基づき、特定国の人権侵害状況を調査したり、一定種類の重大な人権侵害について被害者の救済のために活動する。

 差別防止・少数者保護小委員会(人権小委員会)は人権委により47年に設置され、個人資格の26人の委員により構成される。

 人権小委は人権委の活動を援助すべく、各国の人権状況について公開審議を行ったり通報を直接審査する。公開審議には、委員のほかにオブザーバーとして当該政府代表、国連NGO、他の国連機関の代表も対等の資格で出席。旧日本軍の「従軍慰安婦」犯罪など、世界的な責任追及の重要な場となっている。重大とされるテーマについては個別に作業部会を設けることもできる。

 

各条約機関

 自由権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約など国連の人権条約には、締約国の順守状況を国際的に監視するためのシステムが備わっている。

 各条文に従い、国連には自由権規約委員会(規約人権委員会)、人種差別撤廃委員会、子どもの権利委員会といった個人資格の専門家からなる委員会(条約機関)が設置されている。締約国はこれらの委員会に、条約順守状況に関する報告書を定期的(条約により異なるが4〜5年ごと)に提出する。委員会は報告書をもとに締約国政府代表と議論しながら審査。審査結果をまとめた文書を採択し、懸念事項について改善を勧告する。

 この審査結果自体に法的拘束力はないというのが日本政府の立場だが、審査結果をまとめた文書は、世界から選ばれた専門家集団が条約解釈の決定版として正式に採択するもの。締約国政府にはこれを尊重する義務がある。

 今年5月には子どもの権利委、11月には自由権規約委が、それぞれ日本政府に朝鮮学校差別是正を含む審査結果を言い渡したが、日本政府はこれを速やかに実行しなくてはならない。

 

総聯の国連活動

差別是正勧告勝ち取る/92年から代表派遣

 総聯は、1992年8月の第44回国連人権委・人権小委以来、民族教育権の保障をはじめ在日同胞の人権状況の改善を図るため、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれる人権擁護と関連する各委員会に継続的に代表を送り、日本政府の差別政策の不当性を明らかにしてきた。発言回数も20回を超える。

 総聯代表が訴えてきた主な内容はまず、朝鮮学校生が迫害されるなどの社会的な人権侵害の状況と、それを野放しにする日本政府の不当な態度だ。

 94年8月の第46回人権小委で朝鮮人強制連行真相調査団の代表らは、共和国の「核疑惑」騒動を背景に女生徒がチマ・チョゴリを切られる事件が3ヵ月間で160件も発生したことについて言及した。

 次に、国立大学受験資格差別をはじめ朝鮮学校の処遇の問題だ。

 95年8月の第47回人権小委では京大生(当時)の金海永さんが自らの体験を語りながら、朝鮮学校卒業生にも日本の国立大学受験資格が与えられるべきだと訴えた。

 こうした訴えは、人権委などに参加した各国代表とNGOから多くの支持を得た。

 彼らは、日本に強制連行された朝鮮人の子孫が50年以上経った今も差別されている現状に驚き、差別を是正しない日本政府の姿勢に非難の声を上げた。

 今年に入り国連では、在日同胞の権利問題と大きく関連する2つの重要な国際条約を、日本がいかに順守しているかの審査が行われた。審査の場で発言はできないものの、各国NGOの意見は審査を大きく左右する。総聯も代表を派遣し、積極的なロビー活動を行った。

 5月27〜28日、子どもの権利委員会が行った子どもの権利条約の順守状況に関する第1回日本政府報告書審査に際しては、在日本朝鮮人教職員同盟(教職同)中央本部の蔡鴻悦委員長らが現地入り。10月28〜29日、国連・自由権規約委員会が「市民的政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)の順守状況に関する第4回日本政府報告書審査を行った際には、在日本朝鮮人人権協会の趙纒怏長らが現地を訪れた。

 子どもの権利委員会は6月5日、審査結果をまとめた総括所見で、朝鮮学校生に国立大学受験資格がないことへの懸念を示し、朝鮮人の子どもへの差別を解消するよう日本政府に勧告した。また自由権規約委員会は11月5日、審査結果をまとめた最終見解で、朝鮮学校の制度的差別是正、外国人登録法の撤廃などを日本政府に勧告した。

 国連の各条約機関が相次いで日本政府に在日朝鮮人への差別是正を求めたのは、総聯代表が国連で地道な活動を継続して行ってきた結果だと言えよう。(琴)