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迫害の深層――衛星打ち上げがなぜ(1)/弓削達 東大名誉教授


 共和国の人工衛星打ち上げを契機に日本では反共和国、反総聯策動が展開され、在日朝鮮人に対する迫害、暴行事件が相次いだ。事件の背景と本質、その深層について日本各界人士のインタビューを連載する。(談、文責編集部)

 

日本人騙すため朝鮮を利用/暴力に屈せぬプライドの共有

 朝鮮民主主義人民共和国の「テポドンミサイル発射実験」の不確実情報を、日本政府は、当初の米国情報に固執して、その後の「人工衛星打ち上げだった」という修正情報には耳を貸さず、「ミサイル」と言い張っている。このように、「ミサイル」だと言い張る狙いは何か。それは、朝鮮半島有事を念頭に置いた新「ガイドライン」(日米防衛協力のための指針)を実行するため今国会に提出している「周辺事態法案」を何がなんでも通したいという事以外にはない。せっかく米軍が日本に都合のいい情報をくれたこの機会に日本政府は、「北朝鮮は怖い」「何をするか分からない国」というイメージを世論に浸透させた方が具合がいい。だから今更、実はミサイルではなかったとは、日本政府として絶対言えないのである。「周辺事態法案」のためには、使えるものは最大限、使おうというのが、政府の本心であろう。

 日本政府は日米安保体制の見直しや沖縄の米海兵隊の削減要求の論議のたびに、朝鮮半島を利用してきた。そして、日本人をだますのにも利用している。こうした雰囲気を徹底的に批判しないと、日本だけでなく、世界にとっても不幸なことだ。

 第1、冷静になって考えれば、共和国が日本を攻撃する意志があろうはずがない、ということは、誰でも分かるはずだ。しかし、意図的な反「朝鮮」感情をかきたて、在日朝鮮人生徒に暴行を加え、朝鮮総聯の会館に火炎瓶を投げるという卑劣な事件が、今、日本社会で次々と起こっている。こうした事件の度に、75年前の関東大震災での朝鮮人虐殺事件を想起する人もいるだろう。日清、日露戦争以降、日本軍による歴史の歪曲、隠蔽が行われ、反アジア観、朝鮮蔑視観が日本人の中に広く形成されていった。その過程で非暴力を掲げた1919年の3・1独立運動に血の弾圧を加え、その余塵が燻っていた時期に、官憲がデマを流して引き起こした極悪非道な朝鮮人虐殺事件であった。このようなことが再び起きてはならない、ということは多くの日本人が抱いている気持ちだと思う。そこに当時と今の日本社会の変化を信じている。

 私の専攻はローマ史である。2000年以上も前にローマがなぜ、あのような豊かな文化を築くことができたのか。それは、ローマが他民族に対し、排他的でなかったからである。日本の隣国である朝鮮民主主義人民共和国と戦後半世紀が過ぎても国交さえなく、相変わらず、在日朝鮮人を迫害する日本のやり方では、21世紀の日本の未来に期待することはできない。

 日本のアジア侵略戦争と敗北さえなかったら、朝鮮の分断はありえなかった。南北分断の責任を負っている日本は、今こそ明治以来の「脱亜入欧」、アジア侵略という方向に終止符を打ち、過去を清算し、朝鮮半島の人々と手を携えて、世界人類の等しい平和的共存のために微力をつくすべきである。

 私自身、天皇の問題で発言し、自宅に銃弾を撃ち込まれたりしたことがある。しかし、どんな脅迫や暴力を受けても、私自身は屈する事なく言うべき事は言わなければ、と思っている。言葉以外に私たちは何も持っていない。朝鮮学校に通う生徒のみなさんを駅などで見かけるたびに、全身からみなぎる誇りが伝わってくる。そのように感じる日本人もきっと多いはず。暴力に屈せぬプライドを持って、共に闘って生きてほしいと思う。(粉)

 ゆげ・とおる 1924年生まれ。歴史家。東京教育大(筑波大)教授、東大教授、フェリス女学院大学長を歴任した。主な著書に「ローマ帝国の国家と社会」「ローマ帝国とキリスト教」「歴史家と歴史学」など多数。