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時事・解説/南朝鮮 IMF体制導入から1年


支援前より市民生活悪化/「白紙撤回を」高まる批判

 深刻な通貨・金融危機に陥った南朝鮮が国際通貨基金(IMF)に支援を要請してから、21日で丸1年が経った。しかし、総額570億ドルの融資決定後も企業の連鎖倒産や労働者の解雇は相次ぎ、失業者も増加の一途をたどっている。市民からは効果を見せないIMF体制の白紙撤回を要求する声も根強い。(根)

 

家族で野宿、離婚急増

 IMF体制に入った直後の昨年12月。南朝鮮のある中堅証券会社が「資金難に陥った」との噂が投資家の間で流れた。預託金引き揚げが相次ぎ、同社は一夜にして倒産。社長以下、1800人の証券マン全員、路頭に投げ出された。

 このうち、再就職ができたのは4割にも満たない。「職場を失ったという事実そのものよりも、新たな職場が見つからないことの方が、はるかに堪え難いのです」。解雇された元次長の李さん(46)は語る。

 失業者が行き場もなく駅の待合室でうなだれる姿は、もはや珍しい光景ではなくなった。「野宿者」(ホームレス)も増え続け、家賃を支払えずに家を追われ、一家でテント暮らしをする者さえいる。統計庁とソウル家裁の調査によると、40〜50歳代の夫婦が生活苦で家庭を維持できず、離婚に至るケースが急増しているという。大卒者の就職難も深刻で、各地の「就業博覧会」は学生で連日ごった返している。

 社会不安も深刻だ。日本でも問題になっている「援助交際」は、南朝鮮でも社会問題化している。専門学校のある女子学生は「家庭の事情のため」、生活苦からやむなく行っていると断言する。将来に悲観した中学生の集団自殺、金目当ての恐喝・強盗…。若者の凶悪犯罪率は1年弱で30%増加した。

 

労働者の意向を無視

 IMFが求めた条件は、経済成長率を3%以内、物価上昇率を5%以内に抑えるなどのマクロ緊縮策、外国企業の子会社設立認可と外国人の株式取得限度の引き上げ、金融機関の閉鎖・合併・買収の制度整備をはじめ企業の構造調整の促進などだ。

 それから1年が経った今、目に見える形で進んでいるのは企業の構造調整だ。その最たるものが整理解雇制であり、都市・地方銀行の強制整理、財閥間の大規模業種交換(ビッグディール)だ。ところが、急ピッチな改革は大量失業、連鎖倒産という副作用を生んだ。

 9月末現在で失業率は7.3%、失業者数も157万2000人に膨れ上がった。整理解雇制が導入された今年2月を境に急激な右肩上がりを続けており、専門家からは、大卒未就職者などを含めた実質失業者数は300万人に達するとの厳しい見方も出ている。2万3000社の中小企業が倒産、25行あった銀行も閉鎖、売却、合併などで来年は13行に縮小される。

 貿易収支は若干、黒字に転じたと言うが、例えば物価上昇率は10月末現在で7.2%と、目標の5%水準に至っていない。全体的に改革に進展は見られず、状況はIMF支援前より悪化していると言えよう。

 こうした中、かねてからIMF体制を「経済信託統治」と反対してきた労働組合側からは、IMFの要求をうのみにして労働者に苦痛を強いる現「政権」を非難する声が高まっている。

 労組側は、整理解雇制導入の際に設けられた「労使政委員会」がまったく機能せず、銀行整理など労働者の生存権に関わる問題が当人の意向を無視して行われていることに憤慨。8日の「98民衆大会」でも、安易なIMF導入に対して抗議の意思を示している。

 

「経済一体化」の本質

 タイ、インドネシア、南朝鮮と連鎖したアジアの通貨・金融危機はロシアやラテンアメリカに飛び火し、世界経済に深刻な混乱をもたらしている。IMFはこれらの国に融資する見返りに様々な条件を課し、貿易・投資の自由化を求めている。

 しかし、金広斗・西江大経商学部長が「IMFは、どの国も米国のように市場原理が機能していると考えているようだが、実際にはそんな国は珍しい」(日本経済新聞10月5日付)と語るように、その国固有の事情を考慮せず、一律的な改革を押し付けるIMFに、各国の批判の声は根強い。

 IMFの処方の裏には、経済のグローバル化(一体化)を唱え、ドル本位の金融・通貨システム構築を狙う米国の思惑がある。IMFを牛耳る米国は、一体化の名のもとにIMFを使って米国式市場経済を押し付け、世界経済を米国のコントロール下に置こうとしている。

 米議会と政府が10月中旬に通過させた、IMFが新たに180億ドルを提供するという「IMF支援法案」には、南朝鮮がIMFから支援された資金で南朝鮮の産業を支援した場合、IMF支援を引き上げるとある。ここにも、IMF=米国の戦略の一端が見える。

 「雇用・失業対策、財閥改革、IMFへの対応のための汎国民運動本部」の李昌馥常任代表は、「失業者の増加を止めるにはIMF体制撤回こそが必要」と語る。まもなく発足1年を迎える現「政権」がこれをどう受け止めるか、市民の関心が集まっている。