競争に勝つメニュー開発/「朝鮮料理(焼肉)店経営集中講座」第2回講座(講演要旨)
各地の同胞焼肉業者を対象にした1998年度「朝鮮料理(焼肉)店経営集中講座」(主催=商工連同胞飲食業者協議会)の第2回講座が17、18の両日、東京・上野の朝鮮商工会館などで行われ、本年度の日程を終えた。カゴメ、ハウス食品工業など大企業の顧問も務める経営コンサルタント、押野見喜八郎氏の講演、「競争に勝ち残る! メニュー開発の方法」の要旨を紹介する。(文責編集部)
客層の入れ替わり
日本では、人口の多い団塊の世代が外食産業発展の牽引車になってきた。例えば、彼らが自立して家庭を築くにつれて、郊外型レストランの市場は拡大した。だが、この世代も今や50代。子供たちも大きくなり、ファミリーレストランに行くこともなくなった。
日本の外食産業は今、こうした「客層入れ替わり」の時期を迎えている。
では、新しい客層の主力となる若い世代はどうか。
かつて、経済・文化的に貧しかった大多数の日本人にとって、喫茶店は「夢の空間」だった。しかし、インテリア雑誌から抜け出したような部屋で暮らす今の若者は、その程度の空間には価値を認めない。受けているのは、安価で機能的なスタンド型コーヒー店だ。
また、主要メディアに溢れる「食」の情報は、既存メニューを陳腐化させている。提供するメニュー、サービスがほかの店と同じだと、選ばれる価値がないということにつながる。
「外食ズレ」した客の感覚の上を行く新しい魅力こそが必要だ。
「日常」と「非日常」
客の消費行動は、「日常的外食」と「非日常的外食」の二極化に向かっている。
不況の深まりから来る将来への不安が消費を慎重にさせ、日常の出費は抑えられる傾向にある。その分、たまに楽しみたい時にはかえって気前よく使う。同じ1000円でも「日常的」に使うなら高いが、「非日常的」なら安く感じるのだ。
焼肉店の場合、ランチは「日常」の分野に入るが、高単価なディナーは「非日常」だ。だから、たまにお金を使おうと思った時に選ばれる、そんな店づくりを目指すべきだ。
ただし金を多く使う分、客は「美味しくて当たり前」だと思っており、それ以上の価値が求められる。
商品の価値を構成する基本要素は味、品質、調理技術の3つだが、食器や盛り付けなどを演出することで、原価をかけずに価値を上げることができる。
心理的五感の充足
昔は商品が売れるかどうかは、美味しいかどうかというシンプルな生理的感覚によって決まった。しかし、外食産業の主要な対象客が男性から女性に移る中で、心理的五感を満たす必要が高まった。
すなわち、栄養バランスを優先する「健康感」、安全な食材を求める「安心感」、視覚的な質を求める「美感」、その店ならではを求める「希少感」、そして値段に内容が伴っているかという「価値(実質)感」だ。
また、客の嗜好の流れも押えておきたい。
第1に「グレージング志向」がある。色々なものを少しずつ食べることを意味し、現代人の「ごちそう感覚」になっている。店側からすれば手間はかかるが、客の満足度は高い。セットメニューなどで組み合わせを工夫し、高単価で利率の良いものも作れる。
次に、「エクレティック(折衷)志向」。従来は和・洋・中・朝のどの料理店も、それぞれの「らしさ」を売ってきた。しかし今では、和風ハンバーグ、和風スパゲティなどが売れに売れている。
また、海外渡航者数が毎年のように増え続ける中で、多くの人が本物の外国料理を直に経験している。そこから来る「エスニック志向」に対応するには、まだ紹介されていない本場の家庭料理などもレパートリーに加えて行くべきだ。
日本人客攻略ポイント
■欠かせぬ商品説明
可能な限り、メニューには商品説明を書いておくべきだろう。商品説明はそれ自体で、推奨文の意味を持つ。加えて、日本人客は質問することを恥じる特徴がある。焼肉やキムチ以外はまだまだ馴染みの薄い朝鮮料理は、とくに重要だ。
■野菜は「免罪符」
外食依存が強まるにつれて「健康」「安全」優先の傾向も増している。が、これもイメージ先行の面が大きい。例えば「肉を食べたら野菜も採らなければ」という日本人の「健康感」は、栄養学的にはまったく根拠がない。しかし見方を変えると、健康を気にする客にとって野菜を採ることは、肉を食べるための「免罪符」になる。サラダメニューを工夫することで、肉の販売を促進できるのだ。
■「口内調味」の楽しみを
日本人の「食」の特徴に「口内調味」がある。御飯やおかずを同時に口に入れて、自分なりの味の調和を楽しむものだ。同じ食卓を囲んでいても、各人が楽しんでいる味は違う。焼肉店ではタレや薬味の種類を揃え、好みに従って選ぶ楽しさを提供するのも良い。