訪朝した吉田康彦・埼玉大学教授に聞く
人工衛星発射で祝賀一色/関係最悪でも民間援助続ける
9月26日から10月3日まで共和国を訪問した吉田康彦・埼玉大学教授に訪朝の目的、共和国の科学者と会った感想、人工衛星発射後の最近の共和国事情、日朝関係などについて話を聞いた。(嶺、文責編集部)
日本と反応は正反対
今回の訪朝は、当初予定していた7月末の訪朝が伸びたものだ。訪朝の主目的は4年間続けてきた食糧支援継続のための現地視察だった。共和国の「光明星1号」の発射による「騒動」の最中で、それでも共和国側が入国を認めたことは、4年間の私の実績に対する評価と、信頼の表われだと解釈した。
しかし、共和国側の対日感情は大変悪化していた。
人工衛星の発射については、祝賀ムード一色の共和国と日本とではまるで正反対で当惑した。
共和国は日本政府だけが悪質に立ち回り、それをマスコミが煽っている、という状況を大変な怒りをもって見ていたようだ。
宋日昊・外務省日本課長ら日朝関係の担当者たちからは直接、日朝国交正常化はしない、日本がなくても共和国はやっていけるなどという言葉を聞いた。
人工衛星発射に関する共和国側の主張は、安全面でも十分考慮し、周辺国に対しても万全の注意を払ったということだ。衛星には万一コースを外した場合、安全地帯に誘導し、自爆する装置も備えている。にもかかわらず、日本は一方的に共和国を敵視し、制裁措置をとり、安保理にまで持ち出したなどと日本への不満、怒りをストレートに表していた。
データ収集に4日間
共和国側の計らいで、朝鮮宇宙技術委員会の南奎賛副局長などに会うことができた。副局長によると、衛星は現在も地球を回っており、寿命は2年だという。発射から4分53秒後に打ち上げ成功を確認し、祝杯を上げた、その後あらゆる測定資料などデーター収集に4日間かかり9月4日に公表した、と話していた。科学者たちは今回の打ち上げ成功を大変喜んでおり、彼らが嘘をついているとは思えない。
共和国が、データー収集に4日間有したという点に関しては、別の側面もあったのではないかと思う。
つまり高度な政治的判断であり、それは米国への揺さぶりだ。発射から4日間、共和国はニューヨークで米朝交渉を進める一方、日本に対しては釈明しなかった。これは日朝間に信頼関係がないからだ。実際、日本の共和国への対応を見る限り、日朝交渉の過程や交渉再開の接触などからして、共和国側が米国との交渉を重視し、日本に見切りをつけたとしてもやむを得ないだろう。
調査活動も順調
その後の関係悪化を考えると、共和国側から事前通告も含めて、もっと早く発表があってもよかったと思う。もちろん根本的問題は、日本の共和国に対する敵視政策にある。
私はこの4年間、人道主義の立場から共和国への食糧支援をしてきたが、今回、9月12日に予定していたチャリティコンサートが心ない人たちの妨害で中止に追い込まれた。共和国にはコンサートでの収益金100万円を持参するつもりだったが、今回は有志たちのカンパによる50万円を平壌に駐屯している世界食糧計画(WFP)平壌事務所のデビット・モートン所長に伝達した。
来年も支援活動は続けるつもりだ。私は4年間の支援活動を通じて、共和国にモニタリングにも出かけた。共和国の210郡のうち170郡では調査活動もスムーズに行われており、日本の支援に感謝していることも確認した。現在、100人近い国際機関の職員が共和国に常駐して支援活動に従事しながら信頼関係を着実に築いている。
日本ではなぜ、「あのような国に支援を続けるのか」と言う人もいる。差別や偏見によるものだ。私はこの何年間、各地で人民が復旧活動に取り組んでいる姿や、国連機関の支援に対する共和国側の対応の変化も目の当たりにしてきた。双方に信頼関係を作っていくことが大切だ。
もう一つは日朝間には過去の問題がある。これは避けては通れない。
日本は、過去の清算を南の一方とだけ行おうとしている。だが、共和国を無視した朝鮮半島の平和、東アジアの安定は有り得ない。
日朝は必ず国交正常化をすべきだ。日本側はまず、共和国の存在を認めたうえで、共和国への敵視政策を改め、今回の問題で顕著に表れた日本国内における在日朝鮮人に対する差別、嫌がらせをなくし人権を保障すべきだろう。