高麗青磁への誘い十選 申載天B/青磁水注形水滴
総体的な形は水注の作り方になっており、胴は球形で、短く少し曲がった注口と縄のような蓮茎がそのまま把手となっている。頂きには四方からすぼめた蓮の葉の中に蓮の蕾を少し斜め向きに装飾として形どっている。
胴には文様が刻まれているが、池の中で蓮の根の周辺を泳ぎまわっている亀を表象的に表したのではないだろうかと思われる。全面に透明度の高い美しい淡青緑色の釉薬が施されているが、所々、釉色の欠けているのが心惜しく思われる。
この作品は底に穴があって、胴の壁が2重になっており、底の穴から入った水が内外2重の壁の間に貯えられて注口から硯池に注ぎ落ちるという特殊な作りになっている。
李朝の水滴は数多く残っているが、高麗の水滴は大変まれなもので、10年以上にわたる収集過程で見た数多くの高麗青磁の中でもこれ一品だけである。小品ながらも蓮の池をのぞきこんでいるような気がする微笑ましい作風だ。
手の平に入る程の小さな水注、工夫された図案、そして美しい釉色の肌など、その比例の適正から見て、高麗時代の文房具陶磁の水準の高さの一端がうかがえる(12世紀前半、高さ6.2p)。