時事・論調 // 南朝鮮「大統領」選挙―「政治不在」、深まる混迷


政策論争なく 足の引っ張り合い/与党は苦戦、野党は一本化難航

 12月18日の投票日まであと3ヵ月余りとなった南朝鮮の次期「大統領」選挙。スキャンダル発覚や候補の乱立など、泥仕合の様相を呈してきた。レイム・ダック化の加速する金泳三に影響力はすでになく、政策論争なき足の引っ張り合いは「政治の不在」を物語っている。混迷を深める「大統領」選挙の現状をまとめた。(根)

「兵役免除」で痛手

 与党候補の「新韓国党」代表委員、李会昌(忠清南道出身)が、当初の予想に反し、思わぬ苦戦を強いられている。

 慶尚道出身以外の初の与党候補という「新鮮さ」と裁判官出身の「クリーンイメージ」で、「最も『大統領』に近い男」ともてはやされたが、公選からわずか1週間後に長男と次男の兵役免除疑惑が発覚。「官権濫用の意図的な兵役回避」と激しい非難の声が上がった。「クリーンさ」で売り出しただけに、人々の非難は支持率にダイレクトに反映した。

 これに、全斗煥・盧泰愚の赦免問題が追い打ちをかけた。秋夕(旧盆、9月16日)前の赦免を求める李会昌の建議を金泳三が一蹴、パフォーマンスは空振りに終わったばかりか、逆にこの失態で「指導力」まで問われるはめになった。

 ついには「李会昌では選挙戦を勝ち抜けない」と、候補交代論まで浮上。党内公選で惜敗した京畿道知事の李仁済(忠清南道出身)を推す声が高まった。李仁済は前「総理」の李寿成ら他の候補とともに「反李会昌連合」を組んだ人物。本人も党顧問の朴燦鍾と手を組み、再出馬に備えて知事辞職の意向を明らかにするなど意欲満々だ。

 複雑な派閥争いから7人もの候補が乱立、激しいひぼう中傷合戦を繰り広げた党内公選をはじめ、こうした内輪のごたごたは与党の結束のもろさを露呈した。

慶尚道票がカギに

 一方、野党では、国民会議総裁の金大中(全羅南道出身)と自民連総裁の金鍾泌(忠清南道出身)の候補一本化が暗礁に乗り上げている。

 地元の全羅道、忠清道だけでは「全国区」の与党に単独で勝つのは厳しいとの見方から、初の「野党政権」の目標のもと、両者とも早くから一本化には積極的だった。李会昌と同じ出身の金鍾泌では票の食い合いとなることから、万一、一本化が実現した場合には、金大中の出馬が有力視されている。

 しかし、両者の思惑のずれが微妙な影響を及ぼしており、妥協が統一候補という形になるのか、あるいは失敗に終わるのか、予断を許さない状況だ。

 遅れて名乗りを上げた前ソウル市長で野党・民主党総裁の趙淳(江原道出身)は、知名度だけでは選挙戦は苦しく、与党の反李会昌派など他の勢力と手を組む可能性もありえる。

 鍵を握るのは、候補者がいないため「浮動票」となっている慶尚道票の行方。慶尚道は保守の大票田で歴代「大統領」の出身地。各候補とものどから手が出るほど欲しい。地元票に加え慶尚道の支持を取り付ければ当選は確実と見られるだけに、支持獲得に躍起だ。

当選までは波乱も

 現在、各候補の支持率は、金大中が李会昌を抑えて頭一つリードしているが、選挙日までは一波乱も二波乱もありそうだ。

 8月初めに行われたテレビ討論会では、金泳三の司法処理問題や対北関係の問題などについて若干の発言はあったものの、ほとんど話題には上らず、経済立て直しの問題にしても、積極的な策を打ち出す候補は見当たらない。選挙戦は政策論争よりも互いの疑惑追及を中心に動いている。

 金泳三は8月15日の演説で「北が変わるならわれわれも協力の意志がある」と言い、各候補も「まず北が開放・改革路線を取るべき」などと主張している。しかし、朝鮮の自主的平和統一のためには、統一を阻害する在「韓」米軍の撤退と「国家保安法」の撤廃が不可欠だ。「大統領」候補らは前向きな姿勢を取る必要があろう。

 

次期「大統領」就任までの日程

97. ・19   立候補者の公職辞退期限
  11 ・20   選挙人名簿作成(〜24)
  11 ・26   候補者登録申請、選挙運動に突入
  12 ・11   不在者投票(〜13)
  12 ・18   投票日、即日開票
98. ・25   第15代「大統領」就任