「人は女に生まれない。女になるのだ」と言ったのは思想家シモーヌ・ド・ボーヴォワールである。半世紀以上前、オトコ社会のなかでの女性の位置を、ずばりと示す言葉として、世界中の女性の心をとらえた。

　在日の女性たちにとっても、女性差別について否と主張しようものなら、大変な非難を浴びかねない時代であった。進歩的な思想や民族主義的な運動に取り組んでいた男性たちの中でも、女性差別の生活感覚を内面に同居させている状態が、むしろ一般的だった。

　日本での幾重にも張り巡らされた民族差別、生活苦のうえに、封建的な家父長制。しかし、女性たちは不屈の心で立ちはだかる壁に挑み、壊し、一方で、民族教育の礎を築き、新しい運動の担い手となっていった。

　学べなかった女性たちは成人学校に通い、文字を習い、生きた知識を苦闘の末に獲得していった。運動の現場に立ちながら、目を世界に広げ、一人ひとりが人間の尊厳を取り戻していったのである。この10余年、こうした女性たちに出会い、その内なる声に耳を傾け、話を聞いた。それが「いつもお天道さまが守ってくれた」という本に結実した。

　彼らの苦難のうえに開かれたのが、私たちがいま立つ地平である、としみじみ実感している。彼女たちを心から誇りに思う。（粉）

［朝鮮新報 2011.2.25］