top_rogo.gif (16396 bytes)

大阪朝高と日本の高校選抜が親善試合 ラグビーが育んだ友情

権裕人選手 最後は笑顔でノーサイド

試合前の記念撮影。笑顔で写真に収まる大阪朝高3年生と日本の7校選抜チームのメンバー

 第90回「全国」高校ラグビー選手権大会の2回戦で脳しんとうと診断され、以降の試合に出場できなかった大阪朝鮮高級学校の権裕人選手(3年)のための親善試合が22日、兵庫県西宮市の関西学院大学内のグラウンドで行われた。権選手に最後の花道を飾らせてあげたいという呉英吉監督の呼びかけに、権選手と交流がある各校の選手が応じて実現したもの。

 大会優勝校の桐蔭学園(神奈川)や4強の関西学院(兵庫)、8強の東海大仰星(大阪)、明和県央(群馬)、石見智翠館(島根)、尾道(広島)、京都成章(京都)など7校16人の選手たちが選抜チームを結成し、大阪朝高3年生チームと対戦した。試合は、権選手の2トライなどで大阪朝高が21―10で勝利。権選手はラグビーが育んだ友情をかみしめながら、仲間やライバルとともに高校ラグビー最後の試合を楽しんだ。

「裕人のために」

持ち前のパワーとスピードで相手陣内を突破する権裕人選手

 晴天に包まれた関西学院大学第2フィールド。会場には選手の家族やラグビー部OB、同胞、学校関係者、日本の市民、報道陣が数多く詰めかけた。大勢の記者やカメラに囲まれた権選手の表情は終始笑顔であふれていた。

 関西を中心に日本各地から集まった選手で構成された選抜チームのメンバーもグラウンド入り。竹中祥選手(桐蔭学園)、小原政佑選手(東海大仰星)といった高校日本代表やU―17(17歳以下)代表経験者をそろえる「ドリームチーム」となった。

 花園優勝を目指す大阪朝高の柱だった権選手。U―17日本代表、高校日本代表候補でもあり、将来を嘱望される大型CTBとして大会前から注目を浴びていた。しかし、昨年12月30日、福岡との初戦で相手選手と接触した際に頭部を強打。脳しんとうと診断され、国際ラグビー機構の規定によって3週間プレーを禁じられた。次戦以降の出場は叶わず、最後の大会は不完全燃焼で終わった。「心が折れかけていた」と権選手は当時を振り返る。

 そんな彼を奮い立たせたのが、チームメイトやライバル校の選手の励ましだった。初戦後、彼のもとにこれまで対戦した学校の選手やU―17のメンバーなどから数多くのメールが寄せられたという。竹中選手もそのうちの一人だ。権選手に降りかかったアクシデントを知り、「裕人のいる大阪朝高と戦いたかった。お前の分も走ってくるから」とメールを送った。

 大阪朝高は2年連続の4強入り。権選手も背番号13番を後輩選手に託し、ベンチからチームに声援を送り続けた。

 「彼の高校ラグビーをこのまま終わらせてはいけない」。チームの垣根を超えた友情に感銘を受けた呉監督は権選手のための親善試合を発案した。大会期間中、各校の宿舎を回り、参加を呼びかけた。準決勝で敗れた5日の夜、食事会の席で親善試合のプランが発表された。「もう朝高のユニフォームを着て試合をする機会はない」。そう思っていた権選手はこのサプライズに感極まって涙した。「みんなの心づかいが本当にうれしかった。一生分泣いたかもしれない」。

一生の仲間

試合後の食事会。同じテーブルを囲みながら友情をを深める権選手(左端)、竹中選手(右端)ら両チームのメンバーたち

 親善試合は14時40分にキックオフ。先制された大阪朝高だったが、そこから本領を発揮した。パスを受けた権選手が持ち前のパワーを生かした豪快な突破でトライ。ゴールも決まり、逆転に成功した。

 親善試合とはいえ、両チームとも手抜きはない。高校ラグビー界屈指のバックスである権選手と竹中選手のぶつかり合いの場面では観客からどよめきが起こった。

 そして後半10分、審判が突然、権選手にレッドカードを提示。彼に相手チームのジャージーが手渡され、残りの時間は選抜チームでプレーするという粋な計らいもあった。

 教え子の雄姿を見守った呉監督は、「裕人は敵味方なく仲間に恵まれた。これがラグビーの素晴らしさ。これからもラグビーで活躍してほしい」と話した。権選手も、「集まってくれたみんなと、試合を組んでくれた監督に感謝したい。最後に一緒にプレーできたので悔いはない」とすがすがしい表情だった。

 「明るい性格でムードメーカー」「頼りになるエース」「理想的なセンター」。選抜チームのライバルや大阪朝高のチームメイトは権選手をこう評する。竹中選手は、「今日の試合は彼が皆に愛されているからこそ実現したもの。このメンバーで試合ができてうれしかった」と話した。大阪朝高の金寛泰主将も、「ラグビーの魅力は『ノーサイドの精神』。今日のことは一生の思い出になる」と感想を語った。

 試合後、東大阪市内の焼肉店で食事会が催された。敵味方を超えて友情を深め合う選手たち。権選手を含め、両チームのメンバーの多くはラグビー強豪大学への進学が決まっている。選抜チームのキャプテンを務めた小池一宏選手(明和県央)は、「ラグビーで得た仲間は一生の仲間。卒業後もみんなで切磋琢磨していきたい」と力強く語った。

 最後に権選手があいさつ。この日、何度も口にしてきた「感謝」という言葉で場を締めくくった。「素晴らしい仲間、そしてラグビーというスポーツに感謝したい」。

 日本政府による朝鮮高級学校への「無償化」適用先送りが続き、大阪府も長年実施してきた助成金を一方的に留保するなど朝鮮学校を取り巻く状況は依然厳しいが、この日大阪朝高ラガーマンが見せた堂々たる姿は、訪れた人々に民族教育の意義をあらためて強く印象づけた。(文と写真・李相英)

[朝鮮新報 2011.1.28]