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〈みんなの健康Q&A〉 高齢者に多い誤嚥性肺炎−発症と対策

 Q:高度高齢化社会となり、肺炎による高齢者死亡が増加しているとのことです。

 A:ガン、心臓病、脳卒中が3大死亡原因ですが、これらに次ぐのが肺炎です。そして、肺炎で死亡する患者の90%以上は65歳以上の高齢者です。高齢者では肺炎による死亡が実は最も多いのです。この高齢者肺炎のほとんどは誤嚥による、すなわち嚥下・飲み込みの障害による誤嚥性または嚥下性肺炎と言われるものであり、とりわけ脳卒中患者やその既往者に多いので今日大きな問題となっています。若い元気な人が外で風邪をこじらせて肺炎になってしまった、というのとは様相が違い、この肺炎はしばしば急激に致命的な状態に陥ってしまいます。

 Q:誤嚥性肺炎はどのようにして発症するのですか。

 A:咽頭、副鼻腔、歯周、口腔に常在する病原体が、嚥下障害のために唾液などの分泌物とともに食道ではなく誤って気道に入り込んで、気道内に感染し、肺炎をひき起こします。実際は、食事の誤嚥よりは、細菌を含む唾液などの分泌物が夜間知らず知らずのうちに気道に入り込む不顕性誤嚥が原因になることが多いです。夜間は健常者でも少しは誤嚥しますが、とくに高齢者でその程度や頻度が高く、喉頭の位置が下がること、嚥下筋力が衰えることがその主な理由です。当然ながら、脳梗塞後遺症例ではさらに危険度が増します。

 Q:なぜ脳卒中患者でとくに発症しやすいのですか。

 A:脳梗塞の部位によっては嚥下機能そのものが障害されることがあり、そうでなくても大脳基底核という部位が傷害を受けると、嚥下反射と咳反射を正常に保つために必要なサブスタンスPという物質の合成能が低下します。食べた物や水分がのどにつかえない、つかえても反射的に咳き込んだりして排除しようとする、こういった能力が低下するわけです。嚥下反射と咳反射の低下は口腔内雑菌を含んだ唾液を無意識に誤嚥させます。

 Q:寝たきりなど、日常生活能力が低くなるとさらに発症危険度は上がりますか。

 A:加齢に伴い嚥下に関する筋肉の機能は低下し喉頭も下方へさがっていくため、嚥下に要する時間が伸び、誤嚥の危険が増えますが、とくに夜間は30分以上一度も嚥下をしない時間帯があることがわかっています。こういった状況に加えて、寝たきりに近い状態などで日常生活能力が極端に低下している場合には、まっすぐ座って食べることができないので誤嚥の危険度はいっそう高くなり、同時に病原体に対する抵抗力が弱っているため、容易に感染が成立します。食事中にむせやすい、飲み込むのに時間がかかる、口の中がすぐ不潔になる、食べ残しが多くなった、このような症状があるときはとくに注意が必要です。

 Q:絶食で点滴管理下であっても、この肺炎が発症しますか。

 A:先にも述べたように、食事の誤嚥だけが肺炎を起こしているわけではありません。点滴に限らず、経鼻胃管や胃瘻栄養の状況でも誤嚥性肺炎は発症します。

 Q:嚥下機能が落ちていることを簡単に知る方法はありますか。

 A:専門的な方法は別として、大まかに把握する方法として、自宅でもすぐにできるものに反復唾液嚥下試験、水飲み試験、食物試験などがあるので、医師や看護師からやり方を教えてもらってください。

 Q:誤嚥性肺炎を予防する方法について教えてください。

 A:本質的に嚥下機能を回復させるためには、栄養状態、意識レベルおよび筋力の改善が大前提となります。そのうえで、まず大事なことは口腔内細菌叢の処置・改善です。これには口腔ケア、口腔内清拭、義歯のケア、必要に応じた歯科受診があげられます。また、胃食道逆流の予防として、夜間睡眠時も軽度に頭部を挙上するなどして夜間の体位を工夫する、胃管を夜間だけ抜去する、制酸剤を適宜使用するなどの方策があります。

 Q:一般の人が口腔ケアを行うにあたって、心がけなければならないことは何ですか。

 A:口腔乾燥が著明な場合は、舌や口蓋などの粘膜上に剥離上皮、乾燥痰、舌苔、血餅が付着しやすくなります。その内部では、肺炎起因となる口腔内細菌が増殖し、「菌膜」と呼ばれる口腔内微生物による膜状構造体がしっかり形成されていて、簡単には殺菌できなくなっています。口腔ケア時に歯ブラシなどを用いて機械的に菌膜を除去することが最重要となります。また、日頃から保湿ジェルなどを頻回に塗布し、常に保湿を心がけることで菌膜除去がしやすくなり、剥離上皮なども浮き上がって除去しやすくなるとともに再付着しにくくなります。

 Q:歯の清掃がなぜ大事なのですか。

 A:歯磨きが自立していると思われる場合でも、実際は磨き残していることが少なくありません。磨き残したまま放置すると、繁殖した細菌のみならず口腔内で腐敗した食物残渣をも誤嚥しかねず、肺炎の危険度が増大します。だから、残存歯の磨きはしっかりする必要があります。吸引付歯ブラシを使用すると除去物が咽喉頭や気管内に落ち込むことを予防できます。

 Q:口腔粘膜の清掃方法を教えてください。

 A:剥離上皮、痰、血餅、舌苔、食物残渣をスポンジブラシや舌ブラシなどを用いて除去します。舌苔除去の際に、「重曹+オキシドール2〜10倍希釈」を用いて舌表面をこすると舌苔がうまく浮き上がることがあります。うがいができない場合はガーゼなどでぬぐい、最後に保湿剤を口腔内に塗布すればよいでしょう。(金秀樹、あさひ病院院長、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2011.5.18]