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〈本の紹介〉 移動する朝鮮族


たゆみないフィールド・ワーク

 「抗日遊撃隊出身のすぐれた軍事・政治幹部である姜健、朴洛権、崔光をはじめ約25万人に達する朝鮮青年が東北解放闘争に直接参加していました」(金日成「回顧録―世紀とともに」第8巻265ページ)。

 中国の朝鮮族について語るとき、朝鮮人として右の事実を忘れてはならない。筆者が朝鮮族について関心を抱いたのも主席のこの言葉に接したのが契機である。

 朝鮮族とは、日本の植民地圧制に苦しみ生活の糧を求めて鴨緑江を渡った人々や、在日同胞の強制連行に似た「開拓移民」政策で強制的に集団移住させられた人々がほとんどである。

 解放後の1949年以降、中国で少数民族政策が実施されて東北三省に居住する朝鮮人は少数民族とされた。そして「区域自治」の行政単位として吉林省の延辺が自治州となり州都が延吉と定められ、この地区に朝鮮族総人口192万3千余人(2000年の人口調査)のうちの約80万人が居住している。

 著者は朝鮮族が中国に定住するに至った歴史的および地理的諸条件を綿密に辿りつつ、朝鮮族の社会構成について@ヒトの移動A国家の枠組みを超えた地域構造Bエスニック・マイノリティという3つの視点からアプローチして、東北アジアの平和構築に不可欠な要件を提示している。この点で本書は実践的価値を有するといえる。

 本書は序章と終章を含めて全7章から成っているが、第5章は「『在日本中国朝鮮族』―脆弱性と可能性」であり「主として日本のなかの朝鮮族が本書の事例の中心である」と著者は強調している。朝鮮族が来日する動機のうち最も多いのが「お金を儲けてよりよい生活をすること」である事実を具体的なケースで示し、それが新古典派経済学で説明する移動、すなわち高賃金を求める労働力移動の典型的な例であると結論づける。

 民族については、つとにスターリンの定義が有名であるが、本書は著者が蓄積した学識とたゆみないフィールド・ワークによって朝鮮族という中国籍民族のアイデンティティーと実情を考察したプラティカルな研究書として貴重であり、在日同胞に一読を勧めたい。(権香淑著、彩流社、3500円+税、TEL 03・3234・5931)(周在道・評論家)

[朝鮮新報 2011.4.22]