〈本の紹介〉 冷戦の追憶−南北朝鮮交流秘史− |
6.15の視座揺るぎなく 北南首脳の抱擁、20世紀最後の年の、朝鮮半島における、首脳会談を忘れることができない。 朝鮮半島の緊張緩和と和解、統一を目指す歴史的転換点となった。金正日総書記と金大中大統領は、どちらも全責任を負って、非常な勇気をもって、会談に臨み、それぞれのリスクを引き受けて、重要な決断を下した。この成果は、和解と統一を指向する指導者の構想力と決断に立脚した政治的イニシアチブによってもたらされたのである。 ここに至る道筋、北に住もうが南に住もうが、海外に住もうがあらゆる朝鮮民族がどれだけ苦難の日々を送り、風雪に耐えたのだろうか。誤解と不信の塊、敵意と憎悪の聳え立つ壁をぶち壊すことは何人にとっても困難極まりないことであった。それを氷解させたのが、6.15であり、全朝鮮民族と世界の人々の平和への熱い念願であったのだ。 本書には、その6.15をもたらした巨大なうねり、分断と冷戦時代の多くの人々の懐古と憎悪、出会いと敵対、挫折と希望、熱望と諦念、そして善行と愚行などに思いを馳せ、さまざまな「想い」が織り成す「人間史」を描いた(あとがき)ものであり、涙なしには読めない感動の1冊である。 南の統一部長官政策補佐官でもあった本書の著者が繰り返して語るのは、「共存」の視覚を持て、という言葉だ。南では新たに台頭しつつある若き守旧派(ニューライト)を伴って、冷戦の風景が再び蘇り、憎悪の言葉があふれ出した。和解と協力へと向かう列車は逆走を始めた。時を得たりと現れた記憶の暗殺者、植民地近代化論者たち……。そして、黒雲が朝鮮半島を覆い出した。 こうした6.15の合意をかなぐり捨てて、人々の統一と和解への期待に背いて、何事かを成し遂げることはできないのは、自明の理である。西海の軍事衝突がそれを象徴的に物語る。 西海こそ、脱冷戦に向かう関門のはずであったのだ。1953年、停戦協定により陸上の境界線は確定したが、海上の境界は合意に至らず、2000年の首脳会談後も引き続き和解と協力の外に置かれていた。東海で金剛山観光船が運航されていたときでも、西海は過去に縛られ、敵対を続けていた。「西海軍事境界線を巡る南北間の立場の違いを克服せずに対決の時代に完全なピリオドを打つことができないし、共存の時代も担保されない」と著者が主張するのは当然であろう。 ヒステリックな北バッシングが日常的に続く日本で、朝鮮半島をめぐる視座を揺るぎなく保つことはますます困難になりつつある。そうしたなかで、知的で冷静、かつ6.15史観に立つ本書の出現は、喜ばしいことである。関係者の尽力を多としたい。(金錬鐵著、李準悳訳、平凡社、3200円+税、TEL 03・3818・0742)(朴日粉) [朝鮮新報 2011.3.11] |