南朝鮮の絵本作家 クォン・ユンドクさんが講演 真実を伝え、平和を考える |
「従軍慰安婦」テーマに絵本作成
南朝鮮と日本、中国の作家と出版社が共同で、平和絵本をシリーズ化する企画が進められている。日本の絵本作家4人(田島征三、浜田桂子、田畑精一、和歌山静子)が06年春に提案し、南朝鮮、中国の作家などに呼びかけた。各国からはそれぞれ4人の作家が参加して各自1冊ずつ、最終的には12冊の絵本がそろうことになる。 日本では今月、童心社から「非武装地帯に春がくると」(リ・オクペ文・絵、おおたけきよみ訳)、「へいわってどんなこと?」(浜田桂子)、「京劇がきえた日」(姚紅 文・絵、中由美子訳)の3冊が出版される。1月22日、東京・上野の国際子ども図書館で南朝鮮の絵本作家、クォン・ユンドクさんが「従軍慰安婦」をテーマに作成した絵本「コッハルモニ―花のおばあさん」(南朝鮮では既刊、出版社=四季)について語った。
絵本の構想 クォンさんが、日本軍「慰安婦」について知ったのは20歳の頃。その後「いつか作品化しなければ」との思いが片時も離れなかったという。 平和絵本プロジェクトへの参加を決めて、作品構想のため元「慰安婦」ハルモニたちの証言集を読んだ。物語を書き進め、スケッチを繰り返しながら、性暴力を行った日本帝国軍に対する怒りと憎しみがどんどん胸の中にたまっていき苦しくなった。 出来上がった見本を周囲の人に見せると、「こんなにぞっとする絵本を誰が見たがるのか」と指摘された。読者と通じ合うためには他の方法を探さなくてはならなかった。
「コッハルモニ」のモデルとなったのはシム・ダリョンさんだ。見本を作りながら、「絵本を通して何を伝えるべきか」「『慰安婦』のハルモニたちは証言を通して何を言おうとしているのか」と悩んだ。そして、「加害者を憎み、戦争と暴力に抵抗する意志」がハルモニたちを立ち上がらせた。この絵本が、「慰安婦」問題を性暴力の次元を超えて、戦争と平和の問題に結びつける必要があると考えるようになった。
クォンさんは、「慰安婦」問題は、一部の日本帝国軍人が、罪のない女性個人を性暴行した事件ではないと断言する。「問題の本質は、戦争という非人間的な状況下において、弱者である植民地の女性たちを制度的に性奴隷にしたというところにある。軍隊が駐留した全地域には、『慰安所』が設置され、国家によって組織的・体系的に人員が動員され管理された。『慰安婦』問題の核心的な当事者は、軍隊と国家に違いない」と指摘した。 そして、もう一つ重要な点は、この問題が単純に過去のものではないというところにある。ベトナム、ボスニア、コンゴ、ルワンダ、イラクなどで兵士たちの欲望を充足させるため、敵の士気を落とすため、女性の生殖機能を壊して人種を抹殺させるため性暴力が行われている。クォンさんは、「絵本にはこうした点をも盛り込まねばならなかった」と話した。
共に悩む
見本を10冊ほど作った時、気になったことがあるという。ひょっとするとこの絵本が、子どもたちに日本を隣人としてではなく、憎しみの対象、嫌わなければならない相手として教え込んでしまうのではないだろうかという危惧。 「ハルモニたちの証言を聞くと、日本に対する怒りもあるが、韓国政府に対する怒りも大きかった。45年に戦争が終わり91年に金学順ハルモニが証言するまで、彼女たちは社会の無関心と冷遇の中で生きてこなければならなかった。南朝鮮の軍隊はその後、ベトナム戦争に参戦して、ベトナム女性をたくさん傷つけた。クォンさんは、これらのことを度外視して日本の誤りばかりを誇張し、子どもたちに憎悪だけを植えつけぬよう配慮したという。 絵本の制作を進めながら、子どもたちにモニタリングをしたときのことだ。共通した意見は、おばあさんが間違っていたわけではないのにひどい目にあって心が痛む、戦争はいけない、平和な世の中をつくらなくてはならない、この本をたくさんの人に知らせなければならないというものだった。 「子どもたちは率直に自身の感情を表現し、何が正しく間違っているのかを大人たちよりも良くわかっていた。その姿に希望を見出した。すべての問題は大人にある。子どもたちに戦争はいけないと教えながら絶えず戦争をし、環境を破壊し、暴力をふるい、殺人を犯し、弱い人を無視し差別している。大人たちが作り出す環境で育つほかない子どもたちに、楽しく幸せな本だけを与えることはできないだろう」 クォンさんは、絵本が社会問題を扱う場合、作家にできることは、大人たちが何をなぜうまくできないのかを共に考えることだけなのかもしれないと述べた。 子どもに真実を伝え、平和に向けて共に悩むこと。絵本はその大切な橋渡しをしてくれているのかもしれない。(金潤順) 「コッハルモニ」(日本語版)は、童心社から今年中に発刊予定。朝鮮語版はコリアブックセンターで注文できる。 ※問い合わせ=コリアブックセンター、TEL 03・6820・0111、FAX 03・3813・7522、Eメール=order@krbook.net。 [朝鮮新報 2011.3.4] |