〈本の紹介〉 「ウリ・トンポ・ウリ・トンネ百話」 |
「もう一つの神奈川史」 「歴史を学ぶ」のは、なかなか難しい。年代だけを機会的に覚えても親しみを感じないから、ときが経てばすぐ忘れるものだ。では、どうすればいいのだろう? やはり、歴史を人々の息吹と歩み、涙と笑い、怒りと情熱の集大成として見れば、わかりやすいのではと思う。そんな地域史として叙述されたのが本書である。サブタイトルに「もう一つの神奈川史」と銘打ってあるが、ページをめくるたびに、この地域で生き、命を燃やした人々の足跡が鮮やかに立ちのぼってくる。 しかも本書には、ただ近代史以降に刻まれた同胞の受難史だけではない、7世紀半ば、高麗王「若光」ら高句麗人たちの日本移住によって刻まれた歴史遺跡群などにも言及されており、読み応えがある。そればかりか、高麗と鎌倉幕府の幅広い交流、江戸時代における朝鮮通信史の箱根峠、小田原、大磯、藤沢、東神奈川、川崎における足跡も丹念に追い、あらゆる方面からの知的好奇心に応える読み物となっているところが良い。 執筆に当たり、著者は若い世代にも読みやすいように、歴史を100話で語る形で叙述。一話を3分以内に読めるよう苦心したという。80代の半ばを迎える著者の細心の気配りがありがたい。文を書くものはかくあらねばと痛感させられた。というわけで、細部にわたって、笑いあり、涙ありの同胞史の出現に祝福を送りたい。(孫済河著、啓明書房、TEL03・3811・2772)(粉) [朝鮮新報 2011.1.28] |