日・南・中 「平和絵本」シリーズ 平和・命・文化テーマに日本語版3冊が出版 |
絵本でつなごう子どもの心 未来を担う子どもたちの間に、友好と平和を願う気持ちと、真の信頼関係を深めようと、日本・南朝鮮・中国の絵本作家と出版社が共同で「平和絵本」をシリーズ化する企画を進めている。呼びかけたのは、田島征三・田畑精一・浜田桂子・和歌山静子ら第一線で活躍する日本の絵本作家たち。05年に中国、06年に南朝鮮の作家たちに企画を持ちかけた。 子どもの心に直接働きかける絵本という媒体を使って、この地域の作家たちが心を一つに寄せ合い、共同作業に取り組むのは絵本史上初の試みだ。作家と編集者たちは、言葉や文化の違いを越えて、時間をかけて会議を重ね、出版の準備を進めてきた。 日本では今春、童心社から「へいわってどんなこと?」「非武装地帯に春がくると」「京劇がきえた日」の3冊が発行された。
「へいわってどんなこと?」
戦争をしない、爆弾なんか落とさない、家や街を破壊しない。真っ黒な空を覆う飛行機の黒い影や、廃墟となった街とは対象的に、大好きな人の側にいられる、お腹が空いたらご飯が食べられる、朝までぐっすり眠れる…といった、4〜5歳の幼児から「平和」について具体的なイメージが膨らませられるよう丹念に描かれた。 お母さんの温かい懐に抱かれ、友達と一緒に勉強したり、思いっきり遊べる子どもたちの幸せそうな笑顔が輝いている。 巻末を飾る「平和って、ぼくが生まれて良かったっていうこと」「君とぼくは友だちになれるっていうこと」の言葉が心に響く。身近な日常から、平和の意味と、守らなければならない大切な命について考える。
「非武装地帯に春がくると」
1953年7月27日、朝鮮停戦協定が結ばれると、軍事境界線を境に南北それぞれ2キロメートルずつのところに何重もの鉄条網が張りめぐらされた。その鉄条網と鉄条網の間が「非武装地帯」だ。人々の立ち入りが制限されたため、そこには絶滅の危機に追いやられた動植物がたくさん生息している。 絵本は、非武装地帯の四季の移り変わりと、北の家族を思い展望台に上るハラボジの姿を描いている。非武装地帯が作られて今年で58年。周辺に埋められた数え切れないほどの地雷と兵士らが構える武器の数々を取り除き、朝鮮半島を南北に隔てる鉄条網をはずさなくてはならない。本には、別れた家族が再会し、郷土をあらゆる命が幸せに暮らしていける「平和と命」の地に戻したいとの願いがぎっしりと込められている。
「京劇がきえた日」
中国の伝統的な演劇である京劇にふれ、夢中になった女の子。しかし、戦火が近づき、名優は町を去り、公演を観ることはできなくなった。その後、たくさんの家が壊され、たくさんの人が殺された。1937年 12月の「南京大虐殺」だ。 日本軍は、武器を持たない普通の人々に対して、人類史上最悪ともいわれる蛮行を行った。京劇に夢中になっていた人たちも命を落とし、青年たちは銃を取って戦場へと急いだ。戦火で肉親が離れ離れになったいくつもの家庭は、その後どうなっただろうか。戦争は、人々から生活と文化を奪うものなのだ。 ◇ ◇ ◇ 「平和絵本」シリーズは、3カ国の作家それぞれ4人が、それぞれの国、それぞれの言語で、全12冊の絵本を刊行しあう。日本でも童心社から9冊が出版される予定。 絵本は、一般書店のほか、コリアブックセンターでも注文できる。 問い合わせ コリアブックセンター TEL 03・6820・0111 FAX 03・3813・7522 Eメール=order@krbook.net ■「ぼくのこえがきこえますか」 田島征三 作 戦場で砲弾に吹き飛ばされたぼくの体は飛び散り、足もお腹も、顔もなくなった。でも、ぼくの心は弟の怒りを見、母さんの悲しみを見る。憎悪と復讐がどれだけむなしいものか。戦争がどれだけ無残なものか。「ぼくたちの声は、生きているみんなに聞こえますか?」 ■「しりませんでした」 和歌山静子 作 幼かった私は、知らなかった。自分の国や軍隊が、アジアの国々で何をしていたのかを。海のむこうの国々で、たくさんの人を殺してきたことを…。人々の生活をふみにじる軍靴を戦争の象徴とし、ほんとうの戦争を知らなければならないという思いを描く。 ■「さくら」 田畑精一 作 桜の花が咲く春に生まれたぼく。その年に日本の侵略戦争がはじまり、教科書も新聞も戦争の色にぬりかえられた。ぼくも桜の花のように美しく散れ、死ねと教えられる。戦争が終わり、大勢の人が死んだ。大人になったぼくに、桜の老木が語りかける。「戦争だけは絶対にいかん!」と…。 ■「コッハルモニ―花のおばあさん」 クォン・ユンドク 作 ピョン・キジャ 訳 13歳で日本軍慰安婦として連れていかれ、ひどい苦しみをうけ、人生のすべてを失ってしまったコッハルモニ。数十年の時が流れ、人々との出会いによって、ようやく心の奥底にしまいこんでいた過去を語り、歴史の証人となった。 ■「チュニというあかちゃん」 ピョン・キジャ 文 チョン・スンガク 絵 チュニは40歳。でも赤ん坊のようにおむつをつけて横たわり、お母さんにお世話してもらって暮らしている。徴用されたお父さんを探すため、広島に行ったお母さんのお腹の中で、原爆の放射能を浴びたのだ。そんな悲しい物語を、10歳の女の子の目をとおして描く。 ■「少年十字兵」 キム・ファンヨン 作 おおたけきよみ 訳 戦争で孤児になった子どもたちが、行列をなして道を進む。銃声と砲火を避け、安全な場所を求めて歩いていくのだ。寒い冬の吹雪の中、お腹をすかせたまま、休みなく歩き続けるこの子どもたちは、はたしてもとめる場所にたどりつけるのだろうか。 ■「二まいのふるい写真のものがたり」 岑龍(ツェン・ロン)作 中由美子 訳 1930年代、作者の父は日本で学び、日本人と友情を結んだ。その後、中日戦争が勃発した直後に帰国し、爆撃で家族を失った。間もなく、日本人の友人も戦場で死んだという知らせを聞く。家族も友人も奪った戦争の悲劇を伝える。 ■「街のおもいで」 蔡皋(ツァイ・ガオ)作 中由美子 訳 1938年、歴史ある街・長沙が大火に遭い、悠久の文化がまたたくまに火の海に葬られた。この作品は、美しい街並みとそこに生きる人々、そして、火に包まれ変わり果ててしまった街を描き、戦争がもたらすことについて問いかける。 ■「きれいなくだもの」 周翔(ヂョウ・シァン)作 中由美子 訳 ひとつのくだものが芽を出し、大きくなり、いい音色を響かせた。すると、いろんな表情で笑っていたお父さんたちが、まるっきり同じ顔をした兵士になって、戦場へつれていかれ…。作者は寓話のような物語を通して、どうやって戦争を防ぐかを語る。 [朝鮮新報 2011.5.20] |