〈続 おぎオンマの子育て日記-H-〉 考える人 |
お年玉は、好きな物を1つ買って、残りを貯金することにした。チユニはドラムのスティックを買い、畳や辞書を、日々せっせと叩いている。サンホは「ギネスブック」を買った。 人体の不思議、他人が見るとくだらない挑戦、スポーツの記録などについて飽くことなく読みふけっている。ミリョンは、寝袋を買った。買った日は寝袋に入り、玄関に寝そべって、クラブ活動から帰るチユニを待ち構えていた。 毎晩、布団の上の寝袋に入って眠っている。なぜ、寝袋なのか問いただしはしなかった。なぜなら、彼女は「考える人」だからである。きっと、何か考えがあるのだ。 2歳半頃、ミリョンは家の電話を取ることに執着していた。「もしもし」と言って、後は黙っているのだが。ある日、洗濯物を取り込んでいると、電話のベルが鳴った。あわてて、階下へ降りたが、時すでに遅く、ミリョンが受話器を置いたところだった。相手が誰だったのか、わからないという。 「朝鮮人だった? 日本人だった?」と聞いてみた。すると、しばらく考えて「それはわからんけど、日本語やった」と答えたのだ。まともに自分のおしりも拭けないような年だが、日本語をしゃべるからといって日本人とは限らないと考えたようだった。感嘆した私は、9歳になる今日まで、彼女の考えとリズムを尊重することにしている。3人目なので親としての集中力が切れてしまったのだと、言いかえることもできなくはない。 明日の弁当の下ごしらえを終え、床に就こうとして見ると、隣で寝袋の中からミリョンの顔だけが、丸くほの白く光っている。目が覚めると、蝶やトンボの脱皮のように寝袋からはい出そうとする。しばらく眺めていると、あきらめて、中にあるファスナーを下ろして出てくる。寝袋の中で擦れた髪の毛は、毎朝、鳥の巣のようだ。 3月生まれの上に不器用だけれど、考えることがたくさんあり、毎日楽しそうなので待つことにしている。 いつかは、自力で脱皮するに違いないのだから。(李明玉) [朝鮮新報 2011.4.1] |