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〈詩〉 ウリナラ ウリマル ウリハッキョ

ウリナラ ウリマル ウリハッキョ
その夜 わたしは いくつもの言葉を覚えた
教わったのではない
まだ語ることを知らぬ 幼い子どものように
見知らぬ言の葉の渦のなか
母の乳が やさしく体にしみいるように
それは わたしにしみてきたのだ

日本語と朝鮮語のちゃんぽんが
手鞠のように ぽんぽん弾む
ここでは わたしは少数派
スミダ スミダ とテレビで聞きなれた
語尾だけが くっきりと耳に届く
わたしは 目をまん円くして
人々の顔を見つめる
わたしたちとよく似た面立ちのこの人々は
いったい何を語っているのだろうか と

ああなぜ わたしは この言葉に触れず
この人々の仲間の たった一人にも出会わずに 
半世紀を超え 生きてきてしまったのか
話さないでも 生きてこられる世界だった
出会わないでも 生きてこられる世界だった
あなたがたはみな 日本人と顔を合わせ
日本語を覚えずには
生きてこられない世界だったのに

ウリナラ ウリマル ウリハッキョ
ああ ウリ とは わたしたち のこと
教わらずとも わかってくる
わたしたちの国 わたしたちの言葉 わたしたちの学校
ウリナラ ウリマル ウリハッキョ
覚えたての言葉を 舌の上で 転がしてみる
異国の香料の香る 飴玉のように
それは わたしの舌にほのかに甘く
やがて 薬草のようにほろ苦い

遠い遠い時の彼方 この国のはじまりのころ
半島は憧れの地 新しくきらめくものは
みなそこから 海を越えてやってきた
わたしたちは 赤子が乳をむさぼるように
半島の文化をむさぼり 
すくすくと育ったのではなかったか

それなのに 
まるで一人で育ったと思っているドラ息子のように
敬いもせず 感謝することもなく
それどころか 軽んじ 蔑みさえして
あなたがたを 苦しめてきた
その事実さえ 素手で触れることなく
ここまできてしまった わたしなのに 
わたしたちなのに

あなたがたは 笑顔で迎え
ありがとうと 微笑み 涙さえ流し
高らかに民族の歌をうたい 踊りをおどる
その笑い声と歌声の渦のなかで
わたしは 遠い時代のこの島国の人のように
いまだ言葉を知らぬ 幼い子どものように
あなたたちの言葉を覚えては 歓びを覚えるのだ
ウリナラ ウリマル ウリハッキョ
かなしいまでに 美しい言葉たち
いまやっと出会えた
あたらしく なつかしい人々よ!

(大和三山は耳成山のふもと 朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー朗読会の懇親会に参加して詠める詩)

(寮美千子)

[朝鮮新報 2011.2.25]