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一杯のクッパ

 食堂の長テーブルに並べられた、一杯のクッパ。副食にはキムチがそっと添えられた。

 3月27日の東北朝鮮初中級学校卒業式後に振る舞われた食事だ。例年なら色とりどりの料理が用意されるはずの晴れの舞台。震災でライフラインが止まり、水と電気はなんとか通ったものの、この日もガスは止まったまま。屋外の、薪で焚かれた火で、クッパは炊き出された。

 何もかもが足りない状況でも、卒業生たちのために、たっぷりの愛情を込めて作られたクッパ。材料は、連日のように日本各地から届けられた救援物資だ。

 決して豪華とは言えない、飾り気もなく質素で、それでいてものすごく温かいその味に、涙をこらえた。「みなさん、帰る時にキムチを持って帰ってください。大阪の同胞から送られてきたものです」という声も聞こえた。

 民族性が希薄化し、同胞社会の形も変わったと耳にするようになって久しい。でも、変わらない良さも多い。

 卒業式が終わり、救援物資を埼玉から直接届けに来た先輩たちの車に同乗させてもらい、帰路についた。車中、同校で数年間、教鞭を執っていた先輩がおもむろに聞いた。「クッパおいしかった?」。もう一人の先輩、「うまかったよ。二杯食べた。何で?」「オレは食べ慣れた味だから、周りの反応が気になって」。

 あのクッパの味は、同校の食堂で普段から生徒たちが食べていたもの。震災で「普段の生活」を奪われた中で、生徒たちが感じたであろう「普段の味」に、胸がまた熱くなった。(茂)

[朝鮮新報 2011.4.11]