〈こちら同胞法律・生活センター〉 相続放棄 次順位相続人への配慮必要 |
Q:先月、アボジが亡くなりました。飲食店を経営していたアボジにはかなりの負債があり、オモニと私を含めた3人の姉弟では到底返済できそうにありません。どうすればよいでしょうか? A:相続放棄という手続きがあります。 被相続人(アボジ)の死亡により、被相続人が有した負債も含むすべての権利義務は相続人へと移転することになります。 相続人は、これを承認するか拒絶するかを選択することができますが、相続放棄は被相続人のプラスの財産を譲り受けないと同時に、借金などのマイナスの財産も一切引き継がない、相続財産の承継を全面的に拒絶するものです。 前回の本コーナーでも説明したとおり、在日同胞の相続は「被相続人の本国法に依る」ため、被相続人の本国法が「朝鮮法」か「韓国法」であるかによって、その処理の仕方も異なってきます。いずれを本国法とする場合でも、相続放棄は相続の開始があったことを知った日から原則として3カ月以内に行う必要があること、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で「放棄の申述」を行うこと等は共通していますが、相続人の範囲や相続分において違いが見られますので、注意が必要です。 被相続人であるアボジの本国法が「朝鮮法」である場合、「対外民事関係法」の第45条の規定により日本民法が適用されます。 相続人はオモニと2人の子なので、まずはオモニと子全員が相続放棄を行います。そうすると次の第2順位の相続人である被相続人の直系尊属、すなわちアボジの親が繰り上がって相続人となり、第2順位の親が同様に相続放棄を行うと、さらに次の第3順位の相続人である被相続人の兄弟姉妹へと移ります。この最後の順位である兄弟姉妹が相続放棄を行うと、それ以上亡くなったアボジの負債の追及はされません。 次に、亡くなったアボジの本国法が「韓国法」である場合は、「韓国民法」が適用されます。「韓国民法」では第1順位の相続人は「直系卑属」と規定され、被相続人の子のすべてが放棄した場合でも、孫がいる場合は、孫が直系卑属として当然に相続人となりますから、孫も放棄する必要があります。日本民法で第1順位が「子」と規定されていることと区別する必要があります。 したがって、この相談事例でアボジに孫がいる場合、オモニと子2人が相続放棄を行うと共に、孫も第1順位の相続人として相続放棄をする必要があります。そして、次に第2順位の相続人である被相続人の直系尊属に移り、さらには第3順位の兄弟姉妹へと移ります。 ここでもう一つ注意すべき点は、「韓国民法」では日本民法にはない第4順位の相続人として、被相続人の4親等内の傍系血族(亡くなったアボジから見た叔父、従兄弟等)が規定されており、第3順位の相続人全員の相続放棄により、この第4順位の相続人まで相続人の地位が移っていくことになります。 このように、相続放棄をする際、被相続人の本国法が「朝鮮法」か「韓国法」、いずれの場合であっても、相続放棄により繰り上がる次順位相続人への配慮が必要でしょうし、韓国法の場合には相続人の範囲について特に注意が必要でしょう。(NPO法人同胞法律・生活センター事務局長 金静寅・社会福祉士) [朝鮮新報 2011.3.19] |