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母の言葉

 「あんたは別に結婚せんでもいいからね」。今年のお正月に母親からもらった最も印象的な言葉だ。冗談混じりではあったが、「結婚適齢期」といわれる娘をもつ親の言葉とはなかなか思えない。

 私の父方の家系は結構な家父長主義である。男は金を稼いで女は家で黙々と家事をするのが当然とするその家風は、お正月時に端的に表れる。祭祀を行うための豪勢な料理を女性たちが数日前から準備し、祭祀時には男性のみが大礼をして先祖を祀る。女性たちは台所でその姿を見守っているのみ、祭祀の終了後はすぐに盛大な食事会の準備にとりかかる。

 父方の祖母が亡くなってからは、私の母親が料理全般を担当するようになったため、女性たちのなかでも母親はとくに忙しい。「チョジャンはどこや」「鍋はまだできてないんか」とあちらこちらから飛びかかる男性たちの言葉にも素早く対応する。私もここ数年間は母親の横で食事の準備を手伝ったり、食後の片づけを担当したりしているが、一日三回、洗っても洗っても果てのない約20人分もの食器とひたすら闘っていると、これ以上の重労働を25年以上も毎年続けてきた母親の苦労を思わざるをえない。

 冒頭の言葉は、食事の片づけが終わった後、母親が椅子に座りながらようやく一息ついたときに発した言葉であった。

 「結婚してオモニみたいに苦労したい?」とおどけながら聞くその疲れた笑顔に、私はなんとも曖昧な返事をしながら、心の中で「オモニ、本当におつかれさま」とつぶやくしかないのであった。(金優綺、朝大研究院生、東京都在住)

[朝鮮新報 2010.1.29]