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李冽理選手 「人生をかけた」 応援してくれた同胞に感謝

 朝鮮大学校出身として、初のボクシング世界チャンピオンが誕生した―。

 「祖国の誇りを持って世界のリングに上がる」と明言した青年は、その言葉通り在日朝鮮人「李冽理」として頂点に登りつめた。2日、後楽園ホールで行われたWBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチに出場した李冽理選手が、判定で王座を奪った。

「有言実行」

在日朝鮮人「李冽理」として見事な戦いぶりを見せた李選手。その姿は多くの同胞に感動を与えた

 挑戦者は、「海岸砲兵の歌」が鳴り響くなか入場した。「尊敬する先輩」として目標にしてきた元世界チャンプ洪昌守氏が、かつて入場曲として使用した曲を選んだのは、「在日ボクサー『徳山2世』という意思表示」。 ガウンの背面に刻まれた、「위하여(ために)」の文字は、同胞の期待を背負った「覚悟の証」だ。

 対戦相手となったプーンサワット選手(29、タイ)は、世界2階級制覇者で驚異的な戦績を持つ、4年間負けなしの「絶対王者」。その強さはボクシング関係者の中でも定評があり、試合前には王者に分があるという見方が大半を占めていた。

 しかし、試合は予想通りには行かなかった。

 打ち合いを得意とする王者は、試合開始と同時に勢いよく前進した。対する李選手は、8センチのリーチ差を生かした左ジャブと、小刻みなフットワークを武器に、相手との距離を掌握。決定打を許すことなく、カウンターを的確に狙いポイントを稼いだ。

 試合中盤。「絶対王者」の顔には、明らかに苛立ちの影が浮かんでいた。

 コーナーに追い詰めても上半身の身のこなしで、するりとかわされ、とらえられない。逆に冷静に攻撃をさばき続ける李選手は、チャンピオンを完全に攻略したようにすら見えた。

 一方、王者が優勢と見られていた打撃戦でも李選手は負けていなかった。右アッパー、右ストレートなどのコンビネーションで攻撃をはじくと、5ラウンドにはプーンサワット選手の左まぶたを裂き、流血させた。

会場には元WBA世界スーパーフライ級王者で李選手が「もっとも尊敬するボクサー」という洪昌守氏が応援に駆けつけた。

 勝利が見えてきた最終ラウンドは、赤い応援Tシャツを来た応援団の「レツリ・コール」が、3分もの間、絶えず会場に響き渡った。

 試合終了。結果は、3−0の判定で李選手の大金星。作戦通りの勝ちだった。それは、12ラウンド中、足を動かし続けた李選手のスタミナと、卓越した技術力があってこそ実践できた覇業だ。

 新王者誕生の瞬間、後楽園ホールは応援団の大歓声で揺れた。

 「勝って期待に応えます」−試合前、同胞に固く誓った約束を、見事に有言実行してみせた。客席に向けて拳を高く上げた李選手の目には、涙が浮かんでいた。

 「ありがとうございました」。泣きじゃくりながら、開口一番に言った言葉だ。

 朝大卒業後の2005年、大阪から単身上京した李選手。これまでの道のりは険しかった。2007年、最愛の父が息を引き取り、その翌年には父親のように慕っていた横浜光ジム関光徳会長が、くも膜下出血で亡くなった。失意のどん底にあってもボクシングをやめなかったのは、これまで支えてくれたたくさんの同胞、関係者への感謝があったから。

 「感無量。人生のすべてをかけて戦った。同胞の声援があったからこそ、ここまでこれた。これからも大事にしたい」と、チャンピオンベルトを見つめた。

赤の怒涛 700人の応援団

 一方、この日、関東を中心に、約700人の応援団がつめかけた。会場には各団体による「必勝!李冽理」「李冽理選手、勝て!」などの横断幕が掲げられた。

 赤いTシャツで会場を埋め尽くした応援団は、終始李選手に熱いエールを送り続けた。最終ラウンドでは、「レツリ・コール」に合わせ足を大きく踏み鳴らすと、会場は大きく揺れた。

 その迫力は、相手に「応援団のプレッシャーに負けた」と言わしめたほどだった。

「一緒に戦った」

新王者誕生の瞬間、涙を流しながら互いに肩を抱き合う「赤の応援団」。写真は「応援会」のメンバーと兄の李哲理さん(中央)

 試合の判定結果が出ると、会場の熱はいっそう沸き上がった。誰知れずと肩を抱き合い喜びを分かち合った。

 朝大卒業後、神奈川県に居住する李選手を、同地域の同胞たちはさまざまな形でサポートしてきた。今年4月には、地域でのバックアップをと、「李冽理選手応援会」が発足した。試合終了のゴングが鳴り響くと、「応援会」のメンバーらの目からは涙が流れていた。

 「応援会」の金貴成会長(鶴見地域青商会会長)は、「感動、そして感動」と興奮した気持ちを抑えきれない様子だった。「ここまでの道程は、決して平坦ではなかったと思う。慣れない地で生活し、仕事の傍ら練習に励んできた冽理は、本当に努力を積み重ねてきた。これからも冽理が大きくはばたけるよう、支えていきたい」と語った。

 事務局長の車葡撃ウん(川崎地域青商会会長)もまた、あふれ出てくる涙をこらえきれなかった。「試合中、一緒にたたかっている気持ちで見ていた。最後のラウンドでも落ちない体力が勝利へと導いたと思うし、最強と言われていた相手を負かしてチャンピオンになったことは本当にすごい」。車事務局長は、この日、李選手が羽織っていたガウンをデザインしたという。朝鮮半島を心の中に刻み、在日同胞たちの思いを背負って戦ってほしいという意味を込め、胸には「統一旗」、背中には「위하여(ために)」の文字をあしらった。「それを現実のものにしてくれた冽理に感謝したい」。

「背中押された」

 李選手の活躍は、直接的に支援してきた同胞のみならず、多くの同胞たちに大きな感動と力、夢を与えた。

 朝大出身の金オッセさん(埼玉県中部地域青商会会長)は、朝大の後輩が世界王者になったことを心の底から喜んだ。「最近、Jリーグのセレッソ大阪に朝大生の入団が決まったが、朝大卒業生がいろいろな分野で活躍している。彼らの活躍が朝鮮学校のすばらしさを実証してくれていると思う。今日のこの興奮は、忘れられない。これから自分たちも、青商会の活動をもっと力強くやっていかなければと、背中を押された」と話した。

 この日、誰よりも李選手を支え、応援してきた兄弟をはじめ、親戚たちは総出で試合を見守った。

 李選手の兄である李哲理さん(東京都渋世地域青商会会長)は、感激のあまり言葉を詰まらせていた。「『応援会』や青商会を中心に、みんなが世界戦を宣伝してくれた結果、本当に多くの人たちが集まってくれた」と応援団に感謝しながら、李選手には、「本当にお疲れさま。今はゆっくり休んでくれと言いたい」と微笑んだ。(取材班)

[朝鮮新報 2010.10.6]