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〈本の紹介〉 暴かれた真実 NHK番組改ざん事件

「歴史と責任」に向き合えない日本

 2000年12月、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下、女性戦犯法廷)が東京で開かれ、多数の証言・証拠に基づき、世界的に著名な法律家たちにより「昭和天皇有罪、日本に国家責任」という歴史的な判決が下された。NHKは01年1月、ETV特集「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」で、この女性戦犯法廷を記録する番組の制作を企画した。

 しかし、放送中止を要求する政治家と右翼団体の圧力によって、番組内容は大幅に改ざんされた。女性戦犯法廷の開廷にあたって中心的な役割を果たした「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW−NETジャパン)は、放送された番組が取材協力時の話と一変し、女性戦犯法廷を取り上げておきながらそれを伝えない、むしろ否定する論調の番組が制作され放送されたことに対して、NHKおよび製作会社のNHKエンタープライズ21、ドキュメンタリー・ジャパンを相手取り裁判を起こした。

 本書は、7年にもおよぶ裁判の記録とこの事件・裁判をめぐってその行方を常に注視し、社会に向けてメディアの有り様を発信してきたジャーナリストや研究者、事件当事者を含む22人の見解と、知られざる後日談を収録したもの。

 VAWW−NETジャパンの西野瑠美子共同代表は、なぜこの番組に政治圧力が加えられたのかについて、「単に『慰安婦』問題を取り上げたからではなく、昭和天皇を筆頭に日本軍の高官が被告となり、国際的に信頼のある人々が判事団となって、当時の国際法に則り、日本軍と日本政府の責任を明らかにした女性国際戦犯法廷を取り上げた番組であったから」と語っている。

 そして、女性戦犯法廷が開かれた年は02年度中学教科書の検定があった年でもあり、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書(扶桑社)が検定に合格するなど、「慰安婦」を否定する動きと、それを支える自民党の保守議連が全盛期を迎えていた時期で、01年の採択に向けて「慰安婦」攻撃はピークを迎えていたこととも関連すると指摘している。

 裁判は07年1月、東京高裁の判決により原告の勝訴となったものの、翌年6月の最高裁では不当再判決が言い渡された。NHK番組改ざんから10年。今なお当事者・関係者らの闘いは終っていない。

 今年は女性戦犯法廷から10年を迎え、12月には国際シンポジウムが予定されている。たとえどのような力をもって過ちを消し去ろうとしても、女性戦犯法廷の歴史も、女性たちが受けた被害も消し去ることはできない。(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク編、現代書館、TEL03・3221・1321、2600円+税)(金潤順)

[朝鮮新報 2010.11.26]