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〈本の紹介〉 女性史からみた岩国米軍基地

米軍性暴力を可視化

 冷戦下の女性の受難について、国境を超えた真相調査に取り組んできた大阪大学大学院の藤目ゆき准教授は、98年に開かれた「済州島4・3事件」国際シンポに出席し、そこで恐るべき母性じゅうりんの悲惨な実態を知った。

 「女の被害には、性拷問やレイプといった性暴力、妊産婦と胎児、乳児への虐待、殺傷という残酷さが際だっている。討伐隊員との結婚の強制など心身への深い傷に加え、長い間の社会的冷遇と経済的貧窮、女手一つで子どもを育てる中で嘗めた辛酸。女性たちは幾重もの苦難に満ちた人生を強いられたのである」

 藤目さんは、こうした隣国・朝鮮の人々の受難をそこで終わらせず、東アジアの地域や同時代という連関の中で、日本の現代史の深い闇を照らし出そうと研究を深めてきた。

 本書もそうした視点で一貫する。山口県岩国市には、本州唯一の米海兵隊基地が置かれている。米海兵隊岩国航空基地である。岩国市には平野部が少ないが、この航空基地は総面積約789ヘクタールもの広大な面積を占める。海上でも米軍は基地の東側水域2020ヘクタールを提供されており、そこでは日本の船舶の航行や漁業は禁止されているという。朝鮮戦争後、それまで日本「本土」各地に多数存在した米軍基地は、次第に縮減され、沖縄に基地が集中されていった。ところが岩国基地は朝鮮戦争後も米軍の戦略拠点とされ、半世紀以上にわたって拡張をつづけている。

 本書は岩国基地の歴史を振り返りながら、基地の存在ゆえに人々が激烈な戦災や度重なる事故、爆音被害、戦場と直結する軍事的緊張、米軍人の犯罪と暴力にさらされてきたことがわかる。とりわけ、朝鮮半島から渡日せざるをえなかった人々、失業や貧困や差別に追われて基地の街に流入した人々の歴史的経験を照らし出している。そして、これまで何重にも覆いがかけられてきた米軍性暴力問題の可視化に役立ち、女性史・民衆史から基地問題を考える一助になればという著者の願いが込められた1冊。(藤目ゆき著、ひろしま女性学研究所、1500円+税、TEL 082・211・0266)(朴日粉)

[朝鮮新報 2010.11.19]