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〈みんなの健康Q&A〉 環境不適応−原因と症状

 Q:今年の春から新生活を始めるようになった社会人や子どもたちの心の状態について教えてください。

 A:今年の夏は例年になく暑く、酷暑という言葉がピッタリだったように思います。しかし、秋の涼しさを通り越し、急に寒くなったこの頃は、新入学を迎えた学生・新社会人にとって大きなハードルを乗り越える時期でもあるのです。

 規模の大きな会社では、入社後数カ月間はグループで初期研修を受けた人もいると思いますが、現場部署に配属され、徐々に仕事にも慣れ、今ではある程度の仕事を任されるようになり、社会人としての自覚が芽生えてくる頃ではないでしょうか。

 話は少し変わりますが、人生における新しい社会への第一歩と言えば、新入園を迎える幼稚園・保育園児たちがいます。

 私事で恐縮ですが、次女が今春、幼稚園に入園しました。入園当初は幼稚園の制服に着させられていましが、半年も経つと、親のひいき目でしょうか、不思議とそれなりにさまになってきたように見えてきました。

 しかし、最近ちょっと困ったことが起こっています。実は私も週に1〜2回ほど、娘を幼稚園に送り迎えをしていますが、娘を幼稚園に送り、さあ仕事に向かおうと「主夫」から仕事に頭を切り換えようとした矢先に、娘が私の足にしがみつき「アッパとお家に帰りたい!」と泣きだしたりすることがあるのです。

 嫌がる理由もわからず、「帰りたいの〜」の一点張りで、途方に暮れることもしばしば。「仕事に遅刻しちゃうんだけどな…」と内心、焦り、イライラしながら子どもを説得することを経験しています(今でも、ときどき泣かれます)。

 ほとんどの親は一度や二度は経験されたことがあるのではないでしょうか。しかし、このような行動は、ごく当たり前に起こることなのです。今までは「家庭内」という、母親との一対一の密な関係の守られた狭い世界から、「クラス」という集団の中に入り、そこで自分のポジションを確保し、そこから他の園児との交渉(幼稚園児だとオニの番やオモチャの貸し借りなど…)が始まります。そして、そこで不安・緊張・不満等、あらゆるストレスにさらされるのです。

 Q:子どもにとっても初めての環境(集団生活)はストレスになるのですか。

 A:今はもう、夏が過ぎ、冬の気配がそこまで来ている時期ですが、中には集団生活になじめないでいる子どもたちもいます。そういった子どもたちに対しては、親が不安になると子どもはそれを敏感に感じとり、不安になりますから、親としてはむしろ、行きたくない時は行かなくても良い、くらいの気持ちで、おおらかに見てあげた方が良いようです(実際には難しいことですが…)。

 しかし、子どもは大人が考えるよりも、本質的にもっと強いものです。多少の遠まわりをしても、やはり友だちと遊ぶのは楽しいし、自分でゆっくりと軌道修正をし、いずれは楽しく通園するようになるでしょう。

 家でうんと甘えて、家族にたっぷりと受け入れてもらって、認めてもらえれば、安心して集団の中に戻っていくはずです。自分から幼稚園に行くと言うようになるまで、焦らず、長い目で見ていけばよいと思います。

 母親が幼稚園にずっとついていてあげられないということは、お子さんはよくわかっているはずです。それでも一緒にいてほしいと願う気持ちを、まずは十分受け入れてあげてください。そして、「うちに帰ったらオンマといっぱい遊ぼうね」というふうに話しかけてあげてください。きっと、満面の笑顔で「うん!」と、元気な返事が返ってくると思います。

 Q:大人の場合はどうですか。

 A:次に、大人の環境への不適応について説明してみたいと思います。

 職場不適応(いわゆる出社恐怖)は、「登校拒否症」の会社版と言えます。職場や職場の人間関係などが元となり、職場にうまく適応できなくなり、出社拒否や無断欠勤を重ねていくような状態を「職場不適応」と呼びます。しばしば抑うつ症状や心身症(頭痛・腹痛・めまい等)の症状を伴うことが多いようです。原因としては、職場のストレスと、個人の性格・価値観・就職動機などの不適合から発症することが多いように感じます。

 仕事については、上司を中心とした職場の人間関係、異動による仕事内容や環境の変化(たとえば対人スキルの求められる営業職から緻密さを要求される経理職への配置転換など)、仕事量の多さや責任の重さなどが上げられます。

 職場不適応になりやすい新人社員の特徴としては、物事に対して消極的で、自主性や社会性が不十分の人や、意志が弱いのに自尊心は強く、協調性に乏しく、挫折体験が少ない人などに多く見られるようです。

 イメージ先行型で職務能力、体力、職場の人間関係などで同僚より劣る時に、自分の職務を果たせなくなり、イライラしたり、孤立感を募らせたり、生活リズムが乱れ、軽微な身体の不調をきっかけとして欠勤するようになったりします。

 しかし、責任感がないわけではないので、出勤しようという気持ちから、夜になると「明日からは出勤しよう」などと思いますが、朝になると出勤することが辛くなり、また欠勤する、ということを繰り返すのが特徴的です。

 また、職場における人間関係では、上司との意見や感情の対立などが多く挙げられます。

 仕事の要求度が高いうえに、本人の能力を超えてしまうと、それに応えなければ…という焦燥感などからストレスがたまることになります。

 また、裁量の自由度は、仕事に対する決定権、責任がどれくらいあるかという点で重要です。決定権、責任がまったくないのもストレスですが、自分の能力を超えて責任を負わされるのもストレスとなって、不安や過度の緊張や焦燥を生んでしまいます。

 ところで、「職場環境」の一番の大きな要素として、人間関係を挙げることができると思います。この人間関係をいかにクリアするかで、職場のストレスは大きく変わっていくのです。

 しかしながら人間関係は、職場のおもしろさと深くかかわっている、という側面も持っています。「人間関係」の良し悪しが「仕事の量」や「質」よりも職場のおもしろさを大きく左右します。

 ですから人間関係は、対人関係の仕方によっては職務ストレスを緩和する大きな要素となりますが、逆に、こういった人間関係のない職場では、孤立感を深めてしまい、職場不適応に拍車がかかってしまうのです。(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2010.11.17]